当時のイギリスを知るという意味では面白く見れる。
「THIS IS ENGLAND」(2006英)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 1983年、イギリスの片田舎。フォークランド紛争で父を亡くした苛められっ子ショーンは、ある日ウディ率いるスキンヘッドの不良集団に出会う。ウディに気に入られ一緒に行動を共にするうちに、自分も頭を剃りファッションを真似してすっかりスキンヘッズの仲間になっていく。毎日愉快に過ごしてたが、ウディの兄貴分コンボが刑務所から出所してきたことでそれまでの楽しい生活が一変してしまう。
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(レビュー) 1983年のイギリスを舞台に、鬱屈した感情を抱える若者達の姿を捉えた青春映画。
当時のイギリスは「小さな政府」を目指したサッチャリズム政策により、景気の後退、貧富の差の拡大、移民の流入による失業者の続出という問題に晒されていた。一方、外交ではフォークランド紛争という悩ましい問題を抱え、正に国中が陰隠滅滅とした空気に覆われていた時代である。職にも就けない若者達が徘徊する‥そんな姿も珍しくはなかった。本作のウディ達スキンヘッドのグループが正にそれである。
映画はこれら社会背景を織り交ぜつつ、父を亡くした少年ショーンの成長を描いている。
まだ幼いショーンは、父の戦死によってかろうじて今、世の中で何が起こっているのかを知っている。しかし、まだ母親に甘えたい盛りの小学生である。過酷な現実に直面していない。そこにウディやコンボといった社会からドロップアウトした連中が現れて、彼は現実と対面していくようになる。大人になるということは、つまり現実を知るということだ。それは時として苦しみや悲しみが伴うものである。ラストはビターな鑑賞感を残すが、ショーンの成長を描こうとするにはやはりこうなるしかない‥という気がした。
当時の世情を積極的に取り入れた所は興味深く見る事が出来た。おそらくこの頃のイギリスを描いた作品は他に余り無いのではないだろうか?特に、右よりの国粋主義者の過激な言い分、行動には驚かされた。
現代のイギリスを描こうとすると、移民の問題はどうしてもついて回るマテリアルである。例えば、このブログでも紹介した
「やさしくキスをして」(2004英独伊ベルギースペイン)でもテーマになっていた。白地に赤い線のイングランドの国旗を掲げる国粋主義者達の他民族への偏見と差別は、この映画の中でも衝撃的に語られている。トップニュース扱いのフォークランド紛争の影に隠れて、イギリスの底辺社会ではこういうことが行われていた‥ということをこの映画で知る事が出来た。
作品の出来としては、ドラマの視座に少し曖昧な部分があり、正直余り感心はできなかった。
基本的な視座は主人公であるショーンにある。これが途中でコンボに切り替わる。ドラマの芯がぶれる感じを受けた。コンボの登場がドラマを動かす起爆剤となっていることは分かるのだが、映画はここにかなり突っ込んで展開される。その間ショーンの存在が薄くなってしまったのが残念だった。あくまでショーンの成長ドラマとして作られているのだから、ここはショーンから見た大人達の”愚かさ”として描くべきだったのではないだろうか。