主君に仕える男の壮絶な生き様が胸を打つ。
「血槍富士」(1955日)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルアクション
(あらすじ) 槍持ちの権八は、藩の命で相棒の源太と共に若様を護衛して江戸の旅に出た。同じ道を行くのは、老いた父と気立ての良い娘、三味を弾いて旅をする母娘、謎の大金を持つ藤三郎、孤児の少年次郎だった。彼等は同じ宿場で一泊するが、その夜酒癖の悪い若様が町中で一騒動起こす。権八が駆けつけて事なきを得たが、今後の旅が思いやられた。その頃、町では大泥棒出没の噂が立っていた。大金を持った藤三郎の不審な行動を目撃した次郎が騒ぎたてる。実はその金には意外な事実が隠されていた‥。
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(レビュー) 忠義に熱い槍持ち男の生き様をユーモアとペーソスで描いた時代劇。
宿場を舞台に庶民の人間模様が面白く描かれている。キーマンとなるのが出所不明の大金を持つ謎の男藤三郎だ。彼の金を巡って登場人物達が騒動を起こすのだが、そこに見えてくる義理人情の世界にしみじみとさせられた。
また、権八と三味女の淡いロマンス、次郎との擬似親子的な師弟関係が挿話され、市井に根ざした人情ドラマは懐深く魅力的なものとなっている。
基本的にユーモラスな場面が多いが、クライマックスは一転してシリアスに転じる。槍持ち権八の姿を通して、封建社会に生きる不遇の男の悲劇が語られていく。明暗トーンの切り替えに躓くような所が無く、自然な流れの中で見る事が出来た。主君に仕えるのが己の務め‥という権八の力強く猛々しい”勇気”が叫喚され胸を打つ。
監督は内田吐夢。戦争で中国に抑留されていた彼が久々に日本に帰国して撮ったのが本作である。長年映画界から遠ざかっていただけに、本作にかける思いも並々ならぬものがあっただろう。特に、クライマックスシーンには彼の気概が感じられた。
内田監督と言えば、吉川英治原作の「宮本武蔵」を全5部作で撮った事が思い出される。このクライマックスシーンには、語り草になっている第4作「宮本武蔵 一乗寺の決斗」(1964日)の決闘シーンを髣髴とさせる荒々しい迫力が感じられた。酒溜まりの中で偽物の槍を振り回す権八の姿は何もかもが滑稽である。しかし、命を賭して己が信念を全うしようとする姿は実に神々しくも写る。
尚、内田監督の復帰を祝って本作には小津安二郎が企画協力をしている。作風は違えど二人の間にはこうした繋がりがあったのか‥ということが分かって興味深い。