前半はほぼ裸。後半の姿には憐憫の情に駆られる。K・ウィンスレットの演技が一つの見所。
「愛を読むひと」(2008米独)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 1958年、ドイツ。高校生マイケルは町中で高熱で倒れ、そこを年上の女性ハンナに助けられる。後日、彼女にお礼を言いに行った時に、改めてその美しさに心奪われた。彼女の方もマイケルの純なところに惹かれ、二人はすぐにベッドを共にする。こうして二人の交際は始まる。マイケルがハンナに本を読んで聞かせ、その後に二人は愛し合う。そんな関係が数回続いたある日、突然ハンナが姿を消してしまう。それから8年後、二人は思わぬ形で再会を果たす。
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(レビュー) 純情少年と年上女性の切ないロマンスを、過去の戦争の悲劇を絡めて描いたラブストーリー。
物語は成人したマイケルの回想で綴られる。ハンナと愛し合った少年時代、彼女と不幸な形で再会した青年時代が語られていく。
まず、少年期パートは思春期によくある青い性を綴ったものである。オーソドックスな”一夏の経験”のドラマであるが、すんなりと入り込むことが出来た。身も心も捧げながらこの愛にのめり込んでいくマイケル。しかし、その無我夢中な彼の愛を背負いきれず、ハンナは少しずつ恐ろしくなっていく。自分には年上としての責務をがある。”一夏の経験”をずるずると続けるわけにはいかない。そう思った彼女は、別れも告げず彼の元から去ってしまう。
そして、マイケルの失意を引きずりながらドラマは青年期へと移っていく。法学生になったマイケルはハンナと思わぬ場所で再会する。ここからハンナの知られざる秘密が判明し、幸せだった頃の思い出が過去のものへと漂白されていく。映画は時制を交錯させながら抒情的に描いており、この数奇な運命には切なくさせられた。
そして、最後に再び現在パートに戻って締めくくられる。ここで二人に愛は更に盛り上げられ、永遠の愛として昇華される。見事な幕引きだと思った。
監督はS・ダルドリー。前作「めぐあう時間たち」(2002米)同様、現在と過去を行き来するドラマだが、今回もカットバックは絶妙なタイミングで挿入され、展開に躓くようなところはない。この辺りの自然な演出は実に見事である。但し、学校のシーンにやけに水泳が多い気がした。ここはもう少し変化の工夫が欲しいところである。
C・メンゲスのカメラも美しい。画面は丁寧に作りこまれていて完成度が高い。
そして、何と言っても主演二人の演技が見事である。
ハンナ役を演じたK・ウィンスレットは臆することなくベッドシーンに挑戦し、前半はほぼ全裸状態である。元来演技のポテンシャルは高い女優だったが、ようやくこの体当たりの演技で念願のオスカー受賞となった。後半の愁いを帯びた演技などを見ても納得の受賞だと思う。惜しむらくは晩年の演技である。さすがに倍以上の老け役は難しいという気がした。メイクのせいもあるだろうが、枯れた味わいがもっと欲しい。
一方、若い頃のマイケルも中々に良かった。性に対する欲望を初々しく体現し、ハンナに翻弄される様も実にハマッている。決して美形俳優ではないが、彼女と肉体関係を重ねることでどんどん逞しい顔つきになっていく辺りは良く考えられていた。
一方、本作を見ていて腑に落ちない点もあった。それは、ハンナが何故頑なに秘密を隠そうとしたのか?その理由である。プライドのためなのは分かるが、実際には20年という期間もあればどこかでその秘密はバレると思うのだが‥。弁護士への接見は?友達や親戚縁者は一人もいなかったのだろうか?このあたりの説明が加わればラストの感動にいっそうの説得力が備わったように思う。