精神病の世界に大胆な切り口で迫ったドキュメンタリー作品。ユーモアもあり楽しめる。
「精神」(2008日)
ジャンルドキュメンタリー・ジャンル社会派
(あらすじ) 精神診療所に集う人々の素顔に迫ったドキュメンタリー作品。
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(レビュー) 普段我々が日常生活の中で接する機会の少ない精神病患者の世界。それをありのままに切り取ったドキュメンタリー作品。
監督は”観察映画”と称して創作活動を続けている想田和弘。前作「選挙」(2006日)は未見だが、音楽やナレーションといった作為を一切排して、文字通り観察=記録することだけに徹した作風が独特である。彼が言う”観察映画”というものがどういう物なのか何となく理解できた。
ところで、エンタテインメントとは観客に驚きと興奮を与えることが一番大事なことだと思う。語弊があるかもしれないが、ドキュメンタリー作品である本作は俺にとっては娯楽作品のように楽しめた。それは知らない世界を知るという刺激と興奮と感動を与えてくれたからである。
鬱病や自殺願望といった精神的に追い詰められた人々のことを頭では分かっているつもりだったが、いざ彼等の本音をこの作品を通して聞いてみると、また改めてこの病を新鮮な思いで捉える事が出来た。家族から拒絶され孤独に襲われる人、自戒の念に苦しむ人、他者とのコミュニケーションに怯える人等。精神病と一口に言っても様々なタイプがあって十人十色である。それを治療することは実に骨の折れる仕事だということがよく分かった。
そして、この映画で一番驚いたのは、彼等の中には我々健常者と大して変わらない、むしろこちらが感心してしまうほどの卓越したユーモア・センス、温もりに満ちた優しさ、芸術の才覚といったものを持っている人たちがたくさんいるということだ。普段、我々は彼等をどこか色眼鏡をかけて見ていないだろうか?それは間違っているということを、改めて気付かされたような気がした。
後半に登場する老人は40年以上も病気と戦っていると言う。彼の考えなどを聞いていると、健常者と精神患者の違いは一体どこで線引きすればいいのか分からなくなってくる。つまり、彼が言うには、この世に欠陥を持たない人間などいない‥と言うのだ。確かにそう言われると両者の境目に一体何の意味があるのだろう?と考えさせられてしまう。
カメラは患者以外に、カウンセラーの医師や診療所に勤める職員、介護士等も捉えていく。中でも、診療所の人々が慕ってやまない山本医師の人間味溢れるキャラクターは出色で、真摯なカウンセリング、飄々とした中にも温かみを感じさせる物言い。共に悩み共に考え一緒に病を克服していこうとする姿勢には、エセ・ヒューマニズムなドラマをはるかに超える説得力が感じられた。この映画を見て彼のキャラクターが好きになってしまった。
一方で、この映画は彼等を取り巻く政治的な環境も”観察”している。小泉政権下で可決された「障害者自立支援法案」は、昨今の自己責任論の風潮の中、今後の患者本人の負担増を強いる法案である。その辺りのことについても色々と考えさせられた。