女性映画にバレエの要素を取り入れた稀有な作品。
「愛と喝采の日々」(1977米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 元バレリーナ、ディーディーは同じく元バレリーナの夫と結婚しバレエ教室を開いている。一方、かつてのライバル、エマは今やトップスターに君臨していた。彼女の公演を見に行ったディーディーは久しぶりの再会に喜ぶ。ところが、二人の間には”ある因縁”があり、それが原因で関係はギクシャクしたものになってしまった。数日後、ディーディーの長女エミリアが舞台のオーディションに合格した。両親の血を受け継いだ彼女には類まれなる才能が備わっていた。エマはそれを高く評価し公私に渡ってサポートしていくようになる。ディーディーは娘を取られたような気分になり嫉妬に駆られた。憎しみを募らせていくディーディーとエマ。その傍らでエミリアは順調にステージデビューを果たしていく。
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(レビュー) 二人の女性の生き様をドラマチックなバレエ・シーンで綴った作品。
ディーディーはステージの夢を諦めて結婚を選択した女。エマは生涯バレエの道を貫いた女。夫々にS・マクレーンとA・バンクロフトが好演している。ライバル関係にあった二人は家庭と仕事、別々の道に進んだが、その選択に至るまでには様々な葛藤があった。映画前半は、その謎を紐解いていくドラマとなっている。
そして、後半はディーディーの長女エミリアを巡る二人の戦いが描かれていく。簡単に言えば、母親になった者と母親になれなかった者、スターになった者とスターになれなかった者の嫉妬といがみ合い‥と言うことになろうか。ラスト近くで見せる二人の激しい衝突は見応えがあった。
その一方で、この映画は渦中の人物エミリアの成長ドラマ的な側面も持っている。彼女は母ディーディーを捨て、バレエ界のスターであるエマを信奉していく。彼女のおかげでその才能が花開き、恋と失恋を味わいダンサーとして、人間として大きく成長していく。それは師匠であるエマ、母親であるディーディーからの独立を意味している。師匠と愛弟子、母と娘。これはほぼ同質の関係性を持っていて、彼女の成長ドラマには、広義の意味での母子愛憎のドラマが読み取れる。
このように、この映画はディーディーとエマの対立ドラマ、エミリアの成長ドラマ。二つの側面を持った作品と言う事が出来る。そして、ラストでこの二つのドラマは緊密に絡みあいながら、豊穣な感動へと昇華されていく。女の生き方とは?母親の意味とは?といったメッセージが提示され、女性なら色々と考えさせられるのではないだろうか。
この手のバックステージ物の映画は色々とあるが、スポットライトを浴びる主人公の栄光と挫折に焦点を当てたものが多い。本作のように母子愛を絡めたドラマは中々無いのではないだろうか。そういう意味でも一見の価値がある作品のように思う。
また、この映画は後半にふんだんにダンスシーンが出てくるので、バレエ好きにも堪らない作品だと思う。特に、ロシア出身のダンサー、M・バリシニコフのステージは圧巻である。正に肉体が生み出したアートと呼ぶに相応しい迫力のダンスを見せている。素人目ながら他のダンサーより抜きん出ていることが明確に分かった。同じく彼が主演した「ホワイト・ナイツ/白夜」(1985米)のダンス・シーンを凌ぐかもしれない。
監督はH・ロス。自分は知らなかったが、彼は元々バレエ好きで振付師として映画界に入ってきた人物だそうである。未見だが他にも数本バレエを題材にした映画を撮っている。個人的にはこの監督の作品の中では「マグノリアの花たち」(1989米)という映画が好きである。豪華キャストの良質な女性映画だった。どちらかと言えば、女性映画専門の作家だと思っていたのだが、本作を見てまた新たな資質を発見することができた。