P・ジェルミらしさが出た下町人情サスペンス。
「刑事」(1959伊)
ジャンルサスペンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) ローマの古いアパートで強盗事件が発生した。ベテラン警視イングラバロが捜査を開始する。隣室には事業家バンドウィッチが住んでいたが、事件当時は旅行中で留守だった。居合わせていた妻リリアーナと女中アッスンティナに聞き込みした結果、イングラバロはアッスンティナの婚約者ディオメデを犯人と睨み逮捕する。しかし、彼にはアリバイがありすぐに釈放された。それから1週間後、今度はリリアーナが何者かに刺殺される。第一発見者は彼女の従兄弟バルダレーナだった。開業医をしている彼はリリアーナから援助を受けていた。二人の間にトラブルがあったのではないかと睨むイングラバロ。そこに彼女の遺言状が発見されたという知らせが入り‥。
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(レビュー) 一つのアパートで起こった強盗事件と殺人事件を捜査する警視の物語。ニヒルで人情味溢れるイングラバロ警視のキャラクターが実に魅力的だ。監督・脚本も務めるP・ジェルミが好演している。
ジェルミと言えば名作「鉄道員」(1956伊)が思い出される。市井の生活を丁寧に筆致した手腕は見事だった。そして、その特性は本作にも見られる。事件そのものよりも、その周縁に居合わせる庶民の生活を捉えた描写が実に魅力的である。逆に、事件の捜査に関しては、もう少しサスペンスを利かせて欲しかった気がする。二つの事件の関係性を重視した作劇を望みたかった。事件の顛末もウェット感を強調しすぎていただけない。ジェルミならではと言えば確かにそうなのだが、BGMの「アモーレ、アモーレ」はコッテリしすぎる。ここはむしろクールに締め括ってくれた方が良かった。
さて、本作の魅力は何と言っても先述の通り、生活臭漂う市井の情景である。様々な個性的な人物が登場して繰り広げられるのだが、これが良い。胡散臭い強盗事件の被害者、子供を持てない孤独な人妻、貧しい小間使い、路上の盗人、アメリカ人の情夫、下町に住むブローカー、神父、娼婦、酒場の人々etc.実に多彩でありその一人一人に興味深いバックストーリーが存在する。下町群像劇といった感じで面白く見れた。
また、イングラバロの二人の助手も面白いキャラクターになっている。一人はいつもポケットに食べ物を入れている小太りな刑事。もう一人は聞き込みでナンパする女に弱い刑事。キャラクター・タッチングを細かく刻みなながら人物像を作り上げていく手際の良さには感心させられた。イングラバロがクールに徹するキャラクターなので、部下達のユーモラスさは映画に緩急をつけるという意味でも大変効果的である。
尚、イングラバロはたびたび恋人に電話をするのだが、ここはW・ヒル監督の「48時間」(1982米)の元ネタに思えた。「48時間」のN・ノルティ扮する刑事が妻に電話をするシーンとよく似ている。いつも肝心なところで邪魔が入る‥という所も一緒で、彼の人間味がよく出たシーンである。