「リミッツ・オブ・コントロール」(2009米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 寡黙で孤独な殺し屋が任務を遂行するためにスペインに降り立った。ターゲットは不明。依頼主から”自分を偉大だと思う人物を墓場へ送れ”と命令されただけだった。指定されたカフェへ向かうと、バイオリンを持った男が現れて次の指令が伝えられた。殺し屋は次々と現れる奇妙な人々によって徐々にターゲットへと導かれていく。
goo映画映画生活ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) スタイリッシュな殺し屋がめくるめく幻想世界へ迷い込んでいく、一風変わったクライム・サスペンス作品。
主人公の殺し屋を含め登場人物にいずれも名前はなく、容姿や彼等が持つアイテムによってのみキャラクターが特徴付けられている。例えば、バイオリンを持った男、全身白尽くめの映画女優、透明のレインコートを着た女、分子論を講じる日本人女性‥といった具合にだ。物語は、この記号化された設定の中で、殺し屋と指令役のコンタクトが淡々と繰り返されていくだけである。果たして、これはドラマと言えるのか?観念的過ぎて意味不明、ドラマチックさに欠けると言わざるを得ない。
ただ、これは”ドラマ”を追い求めてしまうことから来る不満であって、実は本作はある一つの明確なテーマに基づいて作られた大いなる野心作なのではないか‥という気もする。ある意味では、J・L・ゴダールの映画ような実に作家性に富んだ作品と言えよう。
監督・脚本はJ・ジャームッシュ。独特のオフビートなスタイルで人間の悲哀を描く作家であるが、今回はドラマを最初から捨てている。その変わりに、必要最小限の映像とセリフによってミステリアス且つコンパクトにテーマを追及しているように感じた。
映像、セリフの端々から、映画、音楽、絵画、科学、ファッションといった話題が取りとめもなく流露される。これらは全てクライマックスで一つのキーワードに集約されると思う。それはずばり”イマジネーション”だ。
頭の中で想像の羽を自由に羽ばたかせることは素晴らしい。それが無ければこれらの文化・芸術は生まれてこない。逆に言うと、人間から想像する力を奪ってしまえば、何と貧相で味気ない人生になるだろう。殺し屋が”イマジネーション”を示唆する特異なキャラクター性を持った数々の指令役とコンタクトを取ること。そして、彼等の協力を得て任務を達成するクライマックスは、正に”イマジネーション”の勝利を意味しているのではないかと思う。
無論、この〝イマジネーション”の素晴らしさを啓蒙するかのごとく作られた本作は、映画作家ジャームッシュ自身の使命から出たものと思う。
そして、そんな風にさえ思える言葉がエンドクレジットの後に出てくる。
「NO LIMIT NO CONTROL」
正に”イマジネーション”の無限性を示した言葉に思えてくる。