カンヌの主演女優賞受賞から5年。ようやく日本で公開された。お蔵入りにならずに済んでよかった。
「クリーン」(2004仏英カナダ)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 元歌手のエミリーは夫でロックスターのリーとドラッグに溺れる生活を送っていた。ある晩、リーがドラッグの過剰摂取で死んでしまう。エミリーも薬物所持で半年間服役した。出所した彼女は、唯一の心の拠り所である息子ジェイに会うためにリーの両親の元を訪ねる。ところが、長年放ったらかしにして母親らしいことを何一つしてこなかったことから、面会を義父に断られた。エミリーはクスリを絶ち仕事に就いてジェイを迎えに来る事を誓い、過去の栄光の地パリへと戻る。そこで、かつてのパートナーを訪ねて人生のやり直しをはかるのだが‥。
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(レビュー) 愛する息子に会う為に更生していくシングルマザーの姿をシリアスに綴った人間ドラマ。
エミリー役をM・チャンが演じている。ダーティーなスラングをわめき散らす冒頭のシーンから、母親失格の烙印を押され失意の縁をさ迷う中盤、そして念願の息子と再会を果たし喜びを溢れさせる終盤。広東語、英語、フランス語を使いながら見事な演技を見せている。歌手としてカムバックすること。息子と暮らすこと。女として、母親として幸せを掴もうと、もがき苦しむ姿は共感を呼ぶ。ただし、歌唱力は今ひとつ‥。ここが揃えばラストも感極まるものになっていただろう。その点だけが惜しまれた。
タイトルの「クリーン」は、エミリーのこれまでの人生の贖罪と再生を意味している。ドラッグと育児放棄、夫を死なせたという過去。これらの罪を洗い流して身奇麗にしてエミリーはジェイとの再起を図ろうとする。しかし、スターの死という悪評のせいでかつての仲間からは見限られ、実家のレストランの給仕をするもすぐクビになり、果ては屈辱的な仕打ちを受けることにもなる。その姿は見ていて実に痛々しい。一度手放した幸福を取り戻すことがいかに難しいことか‥。それがこのドラマからよく分かる。
そして、それは一方でN・ノルティ演じる義父が、いかにして彼女の罪を赦すか?というドラマにも繋がるものである。彼は彼女をジェイに引き合わせるかどうかで苦悶する。この映画はエミリーの視座でドラマが構成されているので、彼のドラマは空疎になりがちだが、本来罪を赦す方にもまた深い葛藤があってしかるべきだろう。同様のことは義母についても言える。彼等の思いを想像しながら見ることで本作はまた深い味わいが出てくる。
ただ、終盤はいただけなかった。エミリーと義父のやり取りがどうしても解せなかった。それこそ、これまでのドラマを全て無に帰すような、そんな後味の悪さが残ってしまった。
(以下、ネタばれなので未見の方はご注意ください)
義父は何故あそこでエミリーをサンフランシスコへ送り出したのだろうか?彼女から更生の手紙を貰い、その内容に感動してジェイを会わせようと思ったのだから、サンフランシスコ行きを諌めても勧めるようなことは決してあってはならないと思う。それ以前に、彼の好意を裏切ろうとしたのだから、ここは物分りの良い人になってはいけないと思う。あるいは、暗にジェイには会わせないぞ、ということを言っているのだとしたら、エミリーはそれを察して笑顔ではなく泣き崩れなければならないはずだ。このシーンを見たときに、今までのドラマは一体何だったのか?という疑問符がついてしまった。自分としては理解しかねる展開で評価に窮するところである。