毒々しい雰囲気がたまらない快作。
「東海道四谷怪談」(1959日)
ジャンルホラー
(あらすじ) 浪人伊右衛門はお岩に片想いしていた。結婚を許してもらおうと父親に直談判しに行く。ところが、取り付くしまもなく断られてしまう。伊右衛門は逆上して父親を切り殺し、そこを偶然、悪友直助に目撃されてしまう。直助はお岩の妹お袖に密かな想いを寄せていたこともあり、共謀して姉妹を我が物にしようと提案する。その言葉に乗った伊右衛門は、父の敵討ちをでっち上げて姉妹に近づき、邪魔だったお岩の恋人までも手にかける。こうして伊右衛門は晴れてお岩と夫婦になるのだが‥。
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(レビュー) 有名な鶴屋南北の怪談を映像化した作品。何度も映画や舞台になっており、知っている人も多いと思うが、本作はあの鬼才中川信夫が監督したということで、おどろおどろしいムードが充満した作品になっている。刺激的な色彩の使用、編集の巧みさはエキセントリックで見るべき点が多い。
昔の作品ながら、お岩さんの特殊メイクも強烈な恐ろしさだ。キッチュなエロティズムはお岩さんのひとつの魅力だと思うが、それがよく出ている。例えば、くしで髪をとかすシーンなどは、薄暗い照明の中にうっすらと浮かび上がる”ただれた”額がなんとも醜怪且つ淫靡である。美醜の変容を印象付けるこの場面は実に見応えがあった。
また、前半におけるカメラワークも作品に重厚な緊張感を漂わせ、この手のB級映画の中にあっては、余り”軽さ”が感じられなかった。これは邦画特有の、もっと言えば日本古来の家屋風景の奥行きと整然さがそうさるのであって、現代劇では中々出せないムードだろう。
1時間15分程度の中編並みの短さなので、ドラマはかなり形骸的な感じを受ける。後半の見せ場を最大限に活かす為に削ぎ落とされたドラマと言って良いだろう。少し安易な話運びであるが、それでも基本となる設定や登場人物達の葛藤は必要最小限に表現されている。実に恐ろしきは人間なり‥というテーマも明確に汲み取れた。
但し、何から何まで大仰な演出になってしまっている所は、さすがに好みの分かれるところかもしれない。演技にしろコントラストを効かせた照明効果にしろ、成功している場面もあるが、シーンによってはオーバーすぎてかえって笑えてしまったりもする。また、花火の効果音はどうにかならなかったものか‥。風情に欠ける。
音楽はロボットアニメ等で知られる渡辺宙明。どうしても軽快な音楽という印象を持ってしまうが、昔は時代劇や犯罪劇等、幅広いフィールドで活躍していた。本作では終始薄暗いトーンでお岩の怨念を見事に盛り立てている。