軽妙洒脱なセリフのやり取りが面白い。
「月蒼くして」(1953米)
ジャンルロマンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) 建築家ドンは街でパティという駆け出し女優に一目惚れする。早速彼女を食事に誘うが、外はあいにくの雨模様。そこでドンのアパートで食事することになった。ドンが食材の買出しに出ている最中、彼の婚約者で階上に住むシンシアが訪ねてきた。ドンの浮気を知ったシンシアは憤慨する。その後、彼女の父デビッドが怒鳴り込んでくる。ところが、男やもめの彼までもがパティの魅力の虜になってしまう。そこにドンが帰宅し、二人は喧嘩を始める。
DMM.comでレンタルするgoo映画ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 一夜の恋騒動を綴ったロマンチック・コメディ。
本作はパティの魅力に尽きる作品だと思う。
貧しい出自の彼女は、誰にも頼らず自分ひとりの力で女優業を続けている。決して売れているわけではないが、何事にも積極的で好奇心旺盛なところが前向きでよい。周囲はそんな彼女の茶目っ気タップリなユーモアにかき回されていく。
例えば、彼女はこんなセリフを言っている。
「将来の夢は女優として成功することでなく金持ちと結婚すること」
「情事抜きの恋愛はOK」
こういったセリフを堂々と言い放つあたり。大した玉と言うほか無い。どこまでが冗談なのか、どこまでが本気なのか掴み所が無い。その奔放さ、危うさが魅力的だ。
ドンとデビッドはライバル心を燃やしながら彼女に猛アタックをかけていくが、彼女の方が何枚も上手で二人ともいい様にあしらわれてしまう。その滑稽さも本作の見所だろう。
更に、物語はこの主要3者に加え、途中からドンの婚約者でデビッドの娘・シンシアが絡んでくることで更にヒートアップしていく。彼女はパティに対抗意識を燃やしていくのだ。
こうして4人の激しい対立は、ほとんどがドンの部屋だけで展開されていく。
今作は元々が舞台劇だったということである。だから、こうした会話劇によるシチュエーション・ドラマになっているのだろう。人物の出し入れ、セリフの面白さは折り紙付きでグイグイとドラマに引き込まれた。
また、単なるお気軽なラブコメというわけではなく、劇中には教訓めいたセリフも登場してくる。例えば、デビッドの「一時は永遠を生む」というセリフは深みのある言葉に思えた。実に哲学的である。
ドン役はW・ホールデン。デビッド役はD・ニーヴン。夫々に好演していると思った。ただ、今回はD・ニーヴンの方に軍配を上げたい。傲慢な資産家というアクの強いキャラクターを嫌味なく演じてしまうあたりが流石である。
一方、小悪魔パティだが、こちらは本作でデビューとなる新人女優が演じている。役柄自体の魅力はあるものの、その魅力を十分引き出しきれていないのが残念だった。完全な力不足である。