変質的なキャラをI・ウッドが妙演している。
「僕の大事なコレクション」(2005米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) コレクション癖のある青年ジョナサンは、病床の祖母から1枚の写真を貰う。そこには自分とそっくりな容姿をした亡き祖父とアウグスチーネという女性が仲良く写っていた。ユダヤ人だった祖父は彼女のおかげでナチスの迫害を逃れたという。ジョナサンはアウグスチーネを探しに祖父の故郷ウクライナへ飛んだ。空港に降り立った彼を出迎えたのは、片言の英語しか話せない通訳アレックスとドライバー役の彼の祖父だった。3人はアウグスチーネを探す旅に出るのだが‥。
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(レビュー) 変わったコレクション癖を持つ青年とウクライナ人達の交流をオフビートなタッチで綴ったロード・ムービー。
ジョナサンは、見たもの、触ったものは何でもコレクションする性癖を持っている。その容姿も黒のスーツに大きな黒ぶちメガネ、髪をカッチリと固め、奇妙な出で立ちをしている。どうして彼はそんな趣味を持つに至ったのか?どうしてそんな格好をしてるのか?そのあたりのことは最後の方で明かされるのだが、これをI・ウッドが飄々と妙演している。この前の記事で紹介した
「17歳~体験白書~」(2002米)でもそうだったが、変質的で何を考えているかよく分からない怪しさが魅力的だ。この役作りは監督の指示なのか、あるいは本人によるものなのか分からないが、持ち前の端正で冷淡な顔立ちとの相性で言えば、中々上手くハマっている。
映画はそんな彼の旅を描いていく。
前半はガイド役である地元青年アレックスと彼の祖父との交流を通して、アメリカ人の目から見たウクライナの風景がスケッチされていく。観光映画的な面白さ、カルチャーギャップの面白さが感じられた。また、朴訥とした住人とのやり取り、動物を使ったコメディ・タッチな演出等、楽しく見る事が出来る。
後半から作風がガラリと変わってくる。ウクライナで起こった戦争の歴史、ユダヤ人であるジョナサンの祖父が受けた迫害の歴史がシリアスに語られていく。ウクライナでこうした反ユダヤ主義があったというのは知らなかった。歴史の一幕を見た思いである。
ただ、こうしたシリアスなトーンを出してくるとは思いもよらなかったので、全体を通して見ると少し意表を突かれた感じは受けた。トーンの統一感に欠けるような気もした。
また、この悲劇の語り部となるのはアレックスの祖父である。彼の戦争体験を通してユダヤ人迫害の歴史を紐解く構成になっているが、ここにドラマ視点のブレが生じてしまう。ジョナサンが過去の歴史を知り得るのは終盤になってからであり、その間ドラマの主観が宙をさ迷う。これはジョナサンのルーツ探しのドラマなのか?あるいは、アレックスの祖父の悔恨のドラマなのか?どっちつかずの印象を持ってしまい、余り上手い構成に思えなかった。ここはドラマの肝となる部分なので、やはりジョナサンの視座に固定して描いて欲しかった気がする。
また、この後半部分は旅の終着点となる描景など、少し幻想的なトーンを帯びてくるようになる。これにも違和感を感じた。確かにこの描景は鮮烈な印象を残すが、戦争の悲劇を炙り出す舞台としてはいささか美し過ぎるような気がした。作り手達はきちんとこの歴史に向き合わなければならない。郷愁として美しい思い出に溺れてはいけないと思う。終盤でのアレックスのリアクションにしてもそうである。余りにも軽すぎる。祖父から受け継いだ戦争の語り部としての役割をアレックスはどう思っているのか?終わりよければ全てよし‥といかないところが本作の苦しいところだ。