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ハート・ロッカー

緊張感が持続する。音がスゴイ。

「ハート・ロッカー」(2008米)star4.gif
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ)
 イラクのバグダッド。アメリカ陸軍ブラボー中隊の爆発物処理班にジェームズ軍曹がやってくる。細心の注意を要する危険な仕事にも関わらず、彼の行動は時に向こう見ずで、部下のサンボーンとエルドリッジは度々危機に晒される。そのため二人はジェームズに対する不信感を次第に募らせていった。一方、ジェームズは地元少年とのかすかな交流に暫しの安らぎを覚えていく。そんなある日、彼等は任務中に突然銃撃戦に遭遇してしまう。
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(レビュー)
 死と隣り合わせの過酷な任務に従事する爆発物処理班の姿を緊張感みなぎるタッチで描いた戦争映画。

 リアリズムに徹したドキュメタリータッチなドラマが、戦場の恐ろしさを克明に記している。いつ爆破するか分からない恐怖。どこにテロリストが紛れ込んでいるか分からない恐怖。それを3人のアメリカ兵の目線を通して臨場感溢れるタッチで描いている。
 人間ドラマは兵士達の織り成す人物関係がかすかに語られるだけで、ザックリと削ぎ落とされている。38日間に及ぶ任務の描写にひたすら終始した作りは、ドラマ性を求める人にとっては少し味気なく写るかもしれない。また、描かれるテーマも冒頭の言葉にあるように”戦争の狂気”に関するものである。これも様々な戦争映画で語りつくされたテーマである。ドラマ性が薄く尚且つテーマに新鮮味も無い。しかし、本作はオスカーを受賞した。その理由はどこにあったのだろうか?

 戦争に対する痛烈なアイロニーが見る者の胸を打ったのか。あるいは、今正にイラク戦争の意味を問うたところに社会派的な意義があったのか、様々な理由が思い浮かぶ。しかし、第一にこの映画を見て衝撃を受けたことは、殺し合いの場における異常な空気感、それを生々しく伝えた秀でた演出力だった。この戦場の恐怖は、ヒロイックさを売り物にする他のアクション映画では到底足元にも及ばない説得力を持っている。死線における生命の卑小さを異常なまでの熱度で照射した演出力は、ある意味で戦場疑似体験映画としては画期的なものではないかという気がした。これは爆発物処理班という好材あってこそだと思う。目の付け所が良い。

 そもそも、爆発物の処理はサスペンス映画のクライマックスなどではよく見られるシーンである。赤のコードと青のコードどちらを切るか?絶体絶命に追い詰められた主人公の二者択一の選択が、サスペンスを盛り上げる。言ってしまえば、この映画はそのクライマックスが全編に渡って連なっているのだ。見ているこっちも手に汗握りながらその現場を目の当たりにしていくことになる。ただし、同じシチュエーションの繰り返しでは2時間持たせるのは無理なので、そのあたりは色々と工夫されている。タクシー乱入という突発的なアクシデントや、人権を蔑ろにしたテロリストのやり方を非情極まる方法で見せた廃ビルのシーン等。砂漠で遭遇する銃撃戦は、また違った意味で大いに興奮させられるシチュエーションだった。このようにこの映画は、爆発物処理班の体験を様々な手法をもって息つく暇を与えないほど次々と繰り出してくるのだ。正直、映画を見終わる頃にはどっと疲れてしまう。しかし、ここまで徹底した形で戦場の恐怖を捉えた作品は、余り他に例が無いように思う。

 監督はK・ビグロー。時に豪快さを、時にセンシティブな感性を操りながら、シーンの緊張化をはかる。生々しいドライヴ感を基調としながら、時にスローモーションの作為性を織り交ぜつつ、それでいてドキュメンタリー様式を崩さない。見事な手腕だ。女性監督というイメージは作品からは微塵も感じられない。彼女の作品を全て見ているわけではないのだが、これまでは正直今ひとつの印象だった。かろうじて傑作と呼べるのは、J・リー・カーティスがタフな女性警官に扮したサスペンス作品「ブルースチール」(1990米)くらいであろうか。K・リーブス主演ということで比較的メジャーと思われる「ハートブルー」(1991米)にしろ、元夫であるJ・キャメロンが脚本を手がけた近未来SF作品「ストレンジ・デイズ/1999年12月31日」(1995米)にしろ今ひとつパッとしない仕事振りだった。ただ、彼女の映画はどれも男っぽい作りで統一されている。そして、その作家性を最も認識させたのが、前作「K-19」(2002米英独)だった。原子力潜水艦の密室劇で、ほぼ男しか登場してこない文字通り“地獄”のような映画だった。そして、今回もほぼ男しか登場してこない戦争映画である。この女性監督は一体どこまで男前な作風を貫くのだろうか。

 さて、戦争の狂気ということで真っ先に思い出されるのはキューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」(1987米)である。実は、この「ハート・ロッカー」も極めて似たような戦争に対するアイロニーを含んだ映画であるが、主人公に起こる内的な変化についてはまったく真逆の方向を見せるので興味深い。殺人マシーンと化していく新兵達を描いた「フルメタル・ジャケット」に対して、本作の主人公ジェームズは大胆不適な爆破処理マシーンからどんどん人間的な弱さを持つようになっていく。しかし、結末はどうかというと、どちらも同じようなシチュエーションで幕を下ろすのだ。ジェームズがその後どうなったかは本編では描かれていない。しかし、戦争を麻薬に例えた冒頭の言葉からすれば、こんな風に想像できてしまう。麻薬は歯止めが効かない。そして、待ち受けるのは”死”のみである‥と。弱き哀れな男に成り果ててしまっても、それでも彼は戦火の中にその身を置かざるを得ないという戦争の狂気。麻薬に例えるとは、言いえて妙である。
[ 2010/03/31 01:13 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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