良質なコメディ。
「マイレージ、マイライフ」(2009米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) リストラ通告を請負う会社で働くライアンは、年間300日以上を出張で飛び回るビジネスマンである。全米中を渡り歩きながら見ず知らずの人間に解雇を言い渡す仕事は決して楽しいものではなかった。しかし、彼には一つの夢があった。それはマイレージを1000万マイル貯めて機長から祝福の言葉を受けることだった。ある日、彼は同じように全米を飛び回るキャリアウーマン、アレックスに出会い恋に落ちる。一夜を楽しみ幸せに浸ったのも束の間、会社から突然の帰社命令が‥。何とコスト削減による出張の廃止が決まったのだ。今後はネットによる解雇通告を採用するということだった。納得がいかないライアンはこの方式を提案した新人女性社員ナタリーと対立する。そして、現場の厳しさを教えるべく、彼女を連れて出張の旅に出るのだが‥。
goo映画映画生活ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) リストラ通告という憎まれ仕事をする中年男の悲喜こもごもを、軽妙洒脱に描いたヒューマン・コメディ。
独身中年プレイボーイ、ライアンは、何のしがらみも持たず鞄一つで各地を飛び回る。良いスーツを着て、高級ホテルに泊まり、行きずりの女性とアバンチュールを楽しんで‥。傍から見ればたいそうお気楽なご身分だ。しかし、そんな彼にも悩みは訪れる。それは将来に対する不安。人生とは‥?生きるとは?といった問題が提示される。中々歯ごたえのあるコメディだ。
まず、ライアンのリストラ通告請負人という職業が面白い。不況の折、何となくリアルなものに感じられるし、ましてや契約社会アメリカではさもありなん‥といった目で見れる。ライアンはこれまで淡々と解雇宣告をしてきたのだが、ある日突然、彼自身が解雇の危機に晒される。不況による合理化の波、デジタル化の波には勝てない。実に皮肉的な運命だが、この災難をきっかけに彼は自分自信の人生を振り返っていくようになる。今まで仕事一筋でやって来た自分の人生は何だったのか?鞄一つで飛び回る人生は何だったのか?家族も無ければ家も無い。その孤独感を通して、人生にとって大切なものが何なのかが問われていく。
監督・脚本はJ・ライトマン。深刻になりがちなドラマを軽妙に描いてみせており、この監督の特性が良く出ている。望まぬ妊娠をした少女の成長を描いた前作
「JUNO/ジュノ」(2007米)もそうだったが、シリアスなテーマを嫌味無く見せるのが大変上手い。ささやかな甘い感動に少しのほろ苦さが加味され、その料理の仕方にこちらも気持ち良く乗っかることが出来た。
また、強引にハッピーエンドに持って行かなかったのも良い。そもそも、ライアン=軽薄な伊達男という設定からして、そうやすやすと葛藤を克服してもらっては、見ている方としても素直に受け入れがたいものがある。今後の未来をちょっぴり期待させるような、そんなエンディングになっている。
旅で出会ったアレックスとの恋。新人女性社員ナタリーとの確執。このあたりも面白く見ることが出来た。特に、ある事がきっかけで落ち込むナタリーとアレックスのやり取り、その後に続くパーティーは、三者の友情が感じられる良いシークエンスである。
逆に不満に思ったのは、ライアンの妹の結婚式である。ここは脚本の解れを感じてしまった。あるアクシデントが起こるのだが、伏線が無いため唐突に感じてしまった。言わば、この部分はライアンのその後の改心に繋がるキーとなるエピソードである。故に、もう少し丁寧に描くことで説得力を持たせる必要があったのではないかと思う。
もう一つ言うと、ナタリーの顛末についても少しアッサリし過ぎている感じがした。ここにも何らかのフォローが必要だったのではないだろうか。その後に続くエピローグがしみじみとくるだけに惜しまれる。
とはいえ、全体的に無駄の無い脚本で上手くまとまっていると思った。人生観を問う問題意識も鋭いし、凡庸なコメディとは一線を画す良作となっている。