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東京暮色

小津作品としては少々異質な作風だが、非常に見応えのある女性映画になっている。
東京暮色 [DVD]東京暮色 [DVD]
(2005/08/27)
原節子有馬稲子

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「東京暮色」(1957日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 東京の閑静な住宅街。銀行員の周吉は、大学を卒業したばかりの次女明子と暮らしている。そこに長女孝子が夫と別れて幼子を連れて転がり込んできた。嫁に行こうとしない明子と出戻りの孝子。益々悩みが尽きない周吉だった。そんなある日、周吉の会社に妹重子がやって来る。2,3日前に明子から借金の相談を受けたと言う。不審に思った周吉は明子を問いただすが理由を言わなかった。実は、彼女は別れた男の子供を妊娠してしまい、その堕胎費用の工面に奔走していたのだ。周囲に打ち明けず一人悩む明子。そんな彼女を遠くから見守る一人の女性がいた。
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(レビュー)
 女の幸せとは?母子の絆とは?女性の葛藤を静謐なタッチで綴った小津安二郎の作品。

 小津作品にしては意外にも隠滅としたドラマだ。恋人に捨てられ堕胎を決意した明子と父周吉、姉孝子の関係がシリアスに綴られている。明子は堕胎の件を誰にも話さない。貞淑を重んじる当時の風潮からすれば当然と言う気もするが、しかしそれ以上に彼女の生い立ちから別の理由も見えてくる。そこを小津はこれまでに無いくらいシリアスに描いている。

 明子は幼い頃に母と生き別れている。母親のいない子にしてしまった責任から父周吉は、長女孝子以上に彼女を溺愛した。しかし、この子育ては完全に間違っていたのだと思う。これは単なる甘やかしでしかない。本当に明子のことを思うなら、母親の不在の理由を包み隠さず正直に話さなければならなかったのだ。こんな父親では信用されまい。堕胎の相談も出来なかろう。
 また、明子は出来の良い姉孝子に対するコンプレックスを持っている。これが彼女の心に大きな壁を作り内省的な人間にしてしまっている。堕胎の件は恥である。その恥を晒したくないという思いが、明子を益々内向きな性格に変えてしまったと想像できる。
 このドラマを敢えて歪曲すれば、望まぬ妊娠という不孝で明子が父親に復讐している‥そんな風に解釈できなくもない。

 このように周吉と明子の関係は、一連の小津作品における情愛に満ちた父娘関係とは明らかに異なるものになっている。むしろ、険悪とも言える。そして、堕胎というマイナスイメージでヒロインをここまで”落とした”小津作品も他に余り例が無いのではないだろうか?これまでの作風を崩してまでヒロインを”落とした”理由はどこにあったのか?同時代に活躍した名匠成瀬巳喜男と結びつけて考えてみると面白く想像できる。

 小津は成瀬の「浮雲」(1955日)を見て「このシャシンは私に撮れない」と言ったという。「浮雲」はダメ男への未練を引きずりながら生きる薄幸な女の半生を描いたメロドラマだ。ヒロイン役の高峰秀子の気だるい演技が奏功し名作と誉れ高い。それと本作の明子役を演じた有馬稲子はどことなく重なって見えてくる。同じように気だるい表情で不幸の身の上を演じている。小津の成瀬に対する意識が、このヒロインの描き方に出ているとは考えられないだろうか。全く異なる作風を持つ名匠の接点がここにあったとすれば、この映画はある意味で小津の成瀬に対する挑戦状と取れなくもない。

 明子以外の二人のヒロインについて考察してみると、また更に興味深い想像ができる。
 長女孝子は自立心の強い女性である。不甲斐ない夫を捨て幼い赤ん坊を抱えて一人で生きていこうとする。しかし、心の奥ではどうしても夫の事が吹っ切れない。これは先の「浮雲」の高峰秀子演じるヒロインとまったく同じ境遇にあるキャラクターと言える。成瀬監督は男女間における”やるせない”やり取りを描く事を得意としていたことから、よく「やるせなきお」などと言われたが、正に孝子の煮え切らないこの葛藤も「やるせなきお」的だ。
 もう一人は中盤から登場する雀荘の女主人喜久子である。彼女もまた不幸を背負った女性である。ドラマのキー・パーソンとなるキャラクターなのでネタバレを避けるが、彼女の背後にも男女の煮え切らない愛憎が存在する。

 こうして明子を含めた3人のヒロインを眺めてみると、三者三様実に個性的だ。そして、それは女の一生を体現しているとも言える。明子は母を慕う「娘」、孝子は夫を愛する「妻」、喜久子は子供を愛する「母」。3人の葛藤から女の一生を見る事が出来る。
 小津映画の中では作風が異質なため今ひとつ注目されない作品であるが、女性映画として見ればこれは大いに見応えのある作品ではないかと思う。

 ちなみに、音に関する演出も今回は際立っていた。遠くで聞こえるピアノの調べ、犬の吼える声、水滴の音、子供達の歌声、これらはかすかに聞こえるのみである。繊細な音の演出も聴き応えがあった。
[ 2010/04/08 01:31 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(1)

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[ 2012/06/11 18:31 ] [ 編集 ]

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