バカ映画だと思っていたら足元をすくわれた感じ‥。
「第9地区」(2009米ニュージーランド)
ジャンルSF・ジャンルアクション
(あらすじ) 南アフリカのヨハネスブルグに巨大な宇宙船が現れた。中から衰弱しきった多数のエイリアンが発見される。その後、エイリアンは第9地区と呼ばれる居住区に隔離され人類の監視下に置かれた。それから20年、スラムと化した第9地区の周辺では民衆の不満が爆発する。国家機関MNUはエイリアンを別の場所に移住させる計画を敢行する。その責任者に抜擢されたのがヴィカスだった。彼は任務の最中に些細な不注意で謎の液体を浴びてしまう。その結果、彼の身体に異変が起こり‥。
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(レビュー) 地球人とエイリアンの軋轢が増す中、数奇な運命によって人生を狂わされていく平凡な男の戦いを、ハードなアクションと鋭い風刺を交えて描いたSFアクション・ドラマ。
SF映画であるが、舞台設定からどうしてもアパルトヘイトの歴史を連想してしまう。飛躍して考えれば、解決の糸口すら見えないイスラエルの問題も連想出来るだろう。基本的に映画の語り口は非常に娯楽然とした痛快なものであるが、こうした風刺は中々面白い。
テーマは実にシンプルなものだ。それは”勇気を持て”ということである。
差別というものは、自らの弱さが生んだ卑怯な価値観だと思う。エイリアンに対する人間の排他的な行動は、未知なる物への恐怖から来る絶対的優位性の証明に他ならない。序盤のヴィカスは完全に体制側の人間、差別主義者として登場する。エイリアンは下品で低脳で社会のカスだ‥。そんな既存の価値観で、エイリアンに暴威を振るう。ところが、任務中にある液体を浴びてしまったことで、彼は皮肉にもこの価値観を改めざるを得なくなっていく。差別を憎んで戦う英雄になっていくのだ。その姿は正に”勇気を持て”というテーマを体現している。
正直、冒頭の設定説明から、中二病的な妄想が入り混じったご都合主義なフィクションじゃないか‥という不安を覚えたのは確かである。これと似た設定で「エイリアン・ネイション」(1988米)という作品がある。設定のユニークさは認められるものの、料理の仕方がまずく個人的には余り楽しめない作品だった。本作の冒頭でその悪例が頭を過ぎった。しかも、フェイク・ドキュメンタリー構造にしたところにも、鼻持ちなら無い”小ざかしさ”を覚えた。わざわざ虚構であるものをドキュメンタリー風に描くことに何の意味があるのだろうか?そんな不信がすぐさま沸き起こった。展開も突っ込みどころが多い。ナイジェリア・ギャングの行動には解せないものがあるし、MNUが急襲されるくだりは甚だな荒っぽい展開でしらけてしまう。謎の液体や猫缶といったアイテムの使い方の浅知恵には、オイオイ‥となってしまった。
微細にこだわらない娯楽に徹したバカ映画なのだ‥と割り切って見ていた。
ところが‥である。クライマックスから、その見方がガラリと変わってしまった。MNU襲撃のシーンで自分は図らずもエイリアンの方に感情移入してしまったのである。何だかとても不憫に思えて涙してしまった。バカ映画と笑って見ていたのに‥。
急にウェット感を出してもそうそう感動できるはずが無い。一つには、エイリアンのキャラクターがきちんとプレマイズされていたことが功を奏しているのだと思う。これは構成の妙と言うほかない。
そして、極めつけはクライマックスである。もはやエイリアンに感情移入してしまった後なので、ここでは当然ヴィカスの戦いに涙するしかない。
辻褄合わせが強引な上に、隙間だらけのバカ映画と高を括っていたのだが、全体的なプロットは上手く作られていて、見せ場となる部分は功名に演出されている。これは中々侮れない作品だと思った。
監督はこれが初演出の新人ということだ。この才能を見つけたのは、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで知られるP・ジャクソンである。彼のバッドテイストは所々のグロい演出からも伺えるが、それ以上に本作における彼の影響は大きいように思えた。「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」(2003ニュージーランド米)のクライマックスシーンを思い出してもらえればいい。フロドを背負ったサムの姿は本作のヴィカスにダブって見えなくはないだろうか?汗と涙と血反吐‥。この3つが揃えば、誰だって熱くならざるを得ない。
尚、以前紹介した
「第5惑星」(1985米)は、本作と同じく異星人間交流というドラマを描いた作品だが、あの作品のクライマックスに何が足りなかったのかが、この「第9地区」を見てよく分かった。要するにキャラクターのパッションが不足していたのである。
この「第9地区」の元となった短編自主制作映画がYouTubeに上がっていたので、興味のある方はご覧あれ。アマチュアでここまで作れたのは大したものだと思う。あのパワードスーツの原型も見れる。
ありのさんへ、おはようございます。
僕はこの作品を2回見たのですが、この作品にナイジェリア人犯罪組織が出てくるのですが、作品中の説明によると「エイリアンの体の一部(腕、内臓等。)」を食べると強大な力が得られるという「オカルト的習慣」があったそうです。(昔のアフリカにはそういうのが残っていたのですが、今はもうありません。)(そのナイジェリア人犯罪組織に「呪術師」がいるのもそのため。(その後、ナイジェリア人犯罪組織はちびっこエイリアンが動かす「パワードスーツメカ」に一瞬のうちに壊滅されてしまいました。)それから、この映画で主役のヴィカスさんを演じたシャルト・コプリーさんなんですが、彼は南アフリカの映画界の映画界で有名な人で(製作・監督・俳優など。)かつこの作品の監督であるニール・ブロムカンプさんの友人だそうです。そして、この作品のVFXを担当しているのは「アバター」でもおなじみのWETAデジタルが請け負っています。それからこの作品のテレビCMがやっていたのですが、「徳光和夫さんの涙version(ニュース番組風)」には驚いてしまいました。(実際映画本篇は、「報道番組」の映像を織り交ぜている個所がところどころあるので。)
こんばんは、にょろ~んさん。
ナイジェリア人に関する描写は少し問題ありかな?と思いました。怒る人もいるかもしれませんね。
主役の人はコミカルさがあって良かったですね。凡人っぽさが溢れていて、だからこそクライマックスの演技とのギャップが秀でたものとなったように思います。
件のCMは見た事が無いのですが、そんな宣伝をしていたのですか。決して大作とは言えない本作、公開規模もそれほど多くは無いのですが、意外や意外、評判も上々のようですし、宣伝効果はあったのかもしれませんね。
おはようございます、ありのさんへ。
この作品に関してですが、日本のアニメからヒントを得たものもあって、具体的に言うと「遺伝子操作された人しか使えない武器とメカ」そして「パワードス-ツから発射されたミサイルが宙を舞いそこから標的めがけて撃ち落とされる(「板野サーカス」からヒントを得たのでは?)」場面は凄いと感じた。
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