アンチ・ブッシュな戦争映画。
「キングダム/見えざる敵」(2007米)
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ) サウジアラビアの石油会社の居留区で爆破テロが発生する。アルカイダ系のテロ組織アブ・ハムザの仕業だと睨んだFBI特別捜査官フルーリーは、現地の調査を上層部に進言する。しかし、政治的なしがらみからそれは却下された。そこでフルーリーは信頼できる3人の部下を連れて単独で現場に急行した。ところが、非公式な捜査とあって、中々思うような調査が出来ない。フルーリーは最後の手段として外交官を通じてサウジ王子と謁見し捜査の必要性を直訴する。これが受け入れられ、彼等はサウジ警察のガージー大佐の協力を得ながら本格的な捜査を開始する。
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(レビュー) FBI精鋭部隊と爆破テロ犯の戦いを描いたアクション作品。
現地でのフルーリー達、アメリカ人に対する風当たりは想像以上に厳しく、捜査は思うように進まない。石油利権を食い散らかすアメリカは敵----その考えがアラブ人の頭の中にはある。この潜在下の反米意識は裏を返せば、アメリカ人のアラブ人に対する差別意識にも同じことが言える事だ。9.11以降、アメリカ人はアラブ人というだけでテロリストという疑いの目で見てしまう。拭いようのない戦争の記憶は更なる戦争を引き起こし、これは正に憎しみの連鎖としか言うほかないだろう。
物語序盤は、石油利権が絡んだ社会派的なメッセージを孕みながら進行する。以前、ここでも紹介した
「シリアナ」(2005米)でも描かれていたが、石油資源を巡る問題は常に中東戦争の影について回る問題だ。政治的な駆け引きを前面に出したところが緊張感があって面白い。
フルーリー達が現地に入ると、ドラマはサスペンスに振れていく。ここでは外交的な政治の駆け引きに加え、戦災の悲劇が生々しく活写され中々ハードなトーンが続く。ただし、幾つか緊張感を失する軽いジョークが飛び交うのは残念だった。扱う問題が問題だけに、不謹慎と取れなくも無いジョークもある。
そして、クライマックスは一転してアクション映画に転じていく。ここは作品全体のトーンからするとややヒロイックすぎる感じがした。重厚なテーマを訴えている割には、安易な勧善懲悪に堕してしまっている。そのせいでテーマが若干弱まってしまった気がした。
全体的には軽快で飽きなく見れる。ただ、クライマックスのアクションシーンとテーマの噛みあわせが余り良くない。サスペンス・アクションの娯楽を楽しみながら、そこそこテーマを感じ取りたい‥という具合に見る分なら及第点の作品と言えよう。
キャラクター造形に関しては若干の不満を持った。フルーリーのチームは法医学、爆破処理、情報処理といった専門知識を持ったプロフェッショナルで構成されている。しかし、その個性を活かした捜査描写が余り見られないのが残念だった。これではせっかくのキャラクターが勿体無く感じた。
一方で、最もリアリティがあり、且つ人間味溢れるキャラクターだったのはサウジ警察のガージー大佐だった。彼は途中からフルーリーの捜査に協力していくようになるのだが、正義感が強くて勇敢で人望も厚い、正に軍人の鏡のような男である。そして、捜査に協力していく過程でフルーリーとの間にかすかな友情を芽生えさせていく。人種を超えて芽吹く戦渦の軌跡で中々に良い。
また、1シーンしか登場しないが、捜査段階の後半で登場してくる元過激派のリーダーも印象に残るキャラだった。彼は元々はテロリストだったが、今は政府の情報提供者になっている。彼は聞き込みに訪れたフルーリーに「テロリストは幽霊みたいなものだ‥」と語る。これは言いえて妙である。現実にテロの首謀者と目されているビンラディンは未だに逮捕されていないし、今や生死の確認すら出来ない状況にある。正にアメリカは幽霊を相手に戦争しているようなものである。そう考えると、この映画のサブタイトル「見えざる敵」という言葉も実に皮肉的に聞こえてくる。