痛烈な風刺を隠し持ったバカ映画。
「26世紀青年」(2006米)
ジャンルSF・ジャンルコメディ
(あらすじ) アメリカ国防省は極秘で人間冬眠実験のプロジェクトを行っていた。その被験者として兵卒であるジョーと売春婦のリタが選ばれる。ところが、責任者が無能で失職したため、二人は冬眠カプセルに入れられたまま忘れ去られてしまう。それから500年後、カプセルから目覚めたジョーが見たものは信じられない光景だった。人類はバカだらけになっており、世界は崩壊寸前になっていたのだ。そこでは一般的な常識は一切通用しない。ジョーは変人扱いされ刑務所に収監されてしまう。彼はもう一人の被験者リタを探して何とか現代に戻ろうとするが‥。
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(レビュー) 冷凍冬眠で500年間眠っていた男が、退廃した未来社会で様々な災難に見舞われていくSFコメディ。
原題は「IDIO CLACY(イデオ・クラシー)」。「痴呆主義」という意味である。全人類が漏れなく総白痴化してしまった未来社会は、余りにも馬鹿馬鹿しい。これまでSF映画の中に登場する未来人は、総じて現代人よりも先鋭的で進化したものとして描かれてきた。今回はそれを全く逆にしてしまったところがアイディアの妙である。
人間がバカになってしまった原因は映画の冒頭で説明されている。IQの高いインテリ層は自身のキャリアを重視し、中々子供を持ちたがらない。生活が安定し、いざ子供を作ろうとしても、その頃にはすでに夫婦の仲は冷め切ってる。一方で、IQが低い貧困層は他にやることもないので、年がら年中セックスに励みどんどん子供を作ってしまう。その結果、バカな子孫だけが繁栄してしまったというのだ。突拍子もないフィクションだが、これが案外バカに出来ない。現に発展途上国におけるの爆発的な人口増大などは、この仮説をそのまま当てはめることも可能だ。また、アメリカではキリスト教原理主義が政治に絶大な影響力を及ぼしていることは、前の共和党政権下でも証明されている。彼等は頑なに妊娠中絶を禁じている。もしかしたら我々人類は遠い未来、こんな風になってしまうかも‥?そんな怖さを伴ったブラック・ジョークはかなり強烈に写る。
劇中に登場する未来社会の描写はかなり戯画化されているが、風刺として見れば結構笑えるものが多い。例えば、TVから流れてくるのは、下らないお笑い番組ばかり。視聴者はジャンクフードとスポーツドリンクを食べながらソファに座ったまま便を垂れ流している。ソファに便座がくっついているというのは、いくらなんでも怠けすぎだろう‥(笑)。極めつけはこの国の大統領である。元ポルノスターのプロレスラーという設定だ。国会では歌を披露して国威発揚を促す。そして、それを聴く民衆は皆目がうつろで口が半開き、あるいは「ヒャッハー!」と奇声を張り上げる筋肉バカばかりである。
ジョーは平凡で何のとりえもない男だが、この世界では天才として崇められていく。このあたりは、以前紹介した戦争コメディ
「まぼろしの市街戦」(1967英仏)と同様だが、違うのは彼がこのままではいけないと思い、積極的にリーダーシップを発揮していく点である。政府に招かれた彼は重要な政策を実行し、世界の破滅を救う英雄になっていく。
前半で見られた毒気が、彼の英雄的行動で薄まってしまうのは残念だが、作品の落とし所をここに設けたのはまずまずの選択と言えるだろう。ただ、ラストのオマケは蛇足だと思うが‥。
ところで、この映画はピクサー製作のアニメ
「ウォーリー」(2008米)の元ネタになっているのではないか‥と一部で言われている。確かにそう言われれば共通する点は幾つか見つかる。例えば、山高く詰まれたゴミがまるでビルのように立ち並ぶ風景、カウチポテトなライフスタイルの未来人の姿、クライマックスシーンも明らかに「ウォーリー」のそれと重なる展開だ。ピクサー側はこのことについては何も言及していないが、果たして真相はどうなのか?