ちょっと癖のあるところが面白い。
「厨房で逢いましょう」(2006独スイス)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 小さな人気レストランを経営する天才シェフ、グレゴアは、料理一筋の人生を送ってきた独身中年男。日々お客のために最高の料理を作り続けてきたが、孤独を感じることもある。ある日、カフェで働く主婦エデンに目が留まり、以来彼女の事をずっと遠くから見続けるようになる。エデンには障害を持つ娘がいて、そのせいで夫との関係は冷め切っていた。グレゴアはひょんな事からエデンと親交を持ち、彼女も彼の料理に魅せられ毎週厨房を訪れるようになる。その関係をエデンの夫に知られてしまい‥。
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(レビュー) 著名な天才シェフと平凡な主婦の慎ましやかなロマンスを、独特のタッチで描いた小品。
通俗的なメロドラマにブラックな味わいをトッピングしたところが面白く見れる。一番の功労はグレゴアのキャラクターにある。
彼は幼い頃から大食漢で、食べる事が大好き。それが興じて料理人になった。今や体重は100キロをゆうに超える超肥満で、容姿に対するコンプレックスから女性との恋愛経験は無い。人生の全てを料理に捧げてきた生き方は、ある意味で不幸とも言える。そんな彼が主婦エデンに出会い恋に落ちる。一般的に不倫というとドロドロとした印象が先立つが、彼の童貞気質丸出しの初々しいアプローチが背徳性や隠微さを被覆する。また、この不倫には色情に拠った即物的な関係とは違う精神的な繋がりが感じられ、どこか朴訥とした風情が漂う。
しかし、裏返して見ればこの朴訥さは、彼が辿ってきた人生の”闇”の部分を克明に表しているとも取れ、それがあることでこの物語はちょっと風変わりな恋愛ドラマになっている。
グレゴアには父親がいない。そして、育ての親である義父との関係はずっと険悪だった。彼のバックストーリーには父性が完全に欠如していることが分かる。そのせいか彼は母親に対する愛情に特別依存しており、それは幼少時代に見た母の妊婦姿にも象徴されている。つまり、彼は大人になった今でも、母の姿を追い求める”子供”なのである。
そして、彼のこの母性求愛は、障害者の娘を愛でる母性の象徴とも言うべきエデンへの求愛にそのまま転化されているような気がした。内気で臆病な言動とは裏腹に、このグレゴアという男の中には病的なほどのマザコン気質が窺い知れる。
誰からも愛されないマザコン男と言えばホラー映画界に一人の有名キャラクターが思い浮かぶ。それは「13日の金曜日」シリーズのジェイソンである。幼いころに得られなかった愛を取り戻そうとして無差別殺人を繰り返すこの殺人鬼は、ホラー映画界のアイドル的存在である。本作のグレゴアにも同様のキャラクター性が読み取れるような気がした。一見すると呑気な不倫劇を描いているように見えるが、実はちょっとだけ背筋の凍るようなブラック・ユーモアが隠されているところが面白い。
お疲れ様です。
実際に3年前bunkamura・ルシネマで観てきまして、
先生にお勧めしたので評価も気になってましたが、
それなりに受け止めて頂いてホッとしてます。
原題はヒロイン役名『エデン』だったとの事で、主人公もさることながら
この主人公に嫉妬するエデンの夫も生々しい描写だったと思います。
ベルリンで法曹界で生きる夢に破れ帰郷し、
飲み屋でも若者にボコられたり、親に全く頭が上がらなかったりと、
どうしようないくらい家庭にしか生き甲斐が無いという人物設定でしたが、
色んな意味で対照的な二人の男性が『エデン』に翻弄されてしまう展開に、
ありの先生も指摘されてます、ブラックユーモアが隠されていると思いました。
私が3月に観ました『モリエール』も中々の傑作です。
来月末下高井戸で上映されるようですし、
いずれメディア媒体化されると思いますのでこちらも楽しみですね。
今回はこれにて。
非常に興味深く見させてもらいました。
欧州の映画は独特のアイロニーが感じられる作品が多いので面白いです。
「エデン」という名前に込められた意味も、ちょっと考えるとかなり意地の悪いジョークに思えますね。
ご指摘の通り「エデン」に翻弄される二人の男の惨めな姿は、どこか可笑しくもあり、悲しくもあり‥。同姓としては身に染みる思いで見てました。
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