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エンター・ザ・ボイド

斬新な映像が紡ぐ映画体験。実験的で面白いけれど‥。
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「エンター・ザ・ボイド」(2009仏)hoshi2.gif
ジャンルファンタジー・ジャンルエロティック
(あらすじ)
 東京・新宿にやって来たオスカーは、ドラッグのディーラーをしながら、たった一人の家族である妹のリンダと狭いアパートで暮らしていた。ある夜、密売が見つかった彼は警官に撃ち殺されてしまう。彼の魂は肉体を離れ新宿の上空を彷徨うようになる。
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(レビュー)
 センセーショナルな作品を撮ることで知られるフランス映画界の鬼才G・ノエ。本作は彼の約7年ぶりとなる新作である。夜の新宿を舞台にドラッグ・ディーラーの青年とポール・ダンサーの妹の純愛を斬新な映像表現で綴った怪作だ。

 この映画の魅力は何と言っても、ビジュアルに尽きるだろう。ドラッグによる幻覚症状と死後の世界を観客に疑似体験させるような一人称のカメラが全編に渡って貫かれている。「クローバーフィールド/HAKAISHA」(2008米)等、昨今はこうしたPOV式の映画が度々作られているが、本作の場合はカメラの視点が死んだオスカーの目となる。死者の一人称で撮られていくところが他の作品とちょっと違う。そこにはPOVの最大の特徴であろうリアルなドキュメンタリー性というより、非現実性、幻想性が宿る。まるで自分が魂となって本当に空を飛んでいるような、そんな浮遊感が体験出来た。中にはどのように撮影したのか分からないようなトリッキーなカメラワークも登場して驚かされる。例えば、鏡に映る自分をどうやって撮影したのか?狭い路地を障害物を乗り越えながらどうやって俯瞰撮影したのか?テクニック的な面では色々と興味が尽きない作品であり、そこに関しては大いに評価したい。

 出てくる画も刺激的だ。頻繁に登場するセックス・シーンは赤裸々に撮られているし、サイケデリックなCGときらびやかなネオンが織り成す新宿の歓楽街はまるでSF映画に登場する近未来都市のようである。そして、この現実離れした不思議な世界観の間隙をついて、時折オスカーの過去の記憶が走馬灯のように蘇ってくる。時制が渾然一体となり現実と虚構の判別が不可能になっていく。さながらトリップ・ムービーといった感じだ。

 しかし、一方のドラマはというと、映像の斬新さに比べると凡庸で起伏に欠けると言わざるを得ない。妹萌えなダメ兄貴の近親相姦願望をひたすらストレートに表現したものに過ぎず、どうにも食い足りない。劇中に登場する「チベット死者の書」から引用される”輪廻転生”を用いて強引にオチに持っていった‥という感じだ。タイトルの「エンター・ザ・ボイド」の「ボイド」とは「無」という意味である。このドラマ自体が「無」だと言うのならそれでも結構だが、だとしても「無」なドラマを描くのに2時間23分も費やすのはいかがなものか?ワンアイディアの斬新な映像表現だけでは、持って1時間半。本作の場合ドラマ性が浅薄なので、それ以上長くなると尻が痛くなってくる。

 そもそも、映画におけるドラマとはシナリオもさることながら、モンタージュによって構築されるものである。それが本作の場合起こりえない。つまり、全編が一人称で綴られていく以上、モンタージュ理論が追求する映画言語表現、観客の心理を複雑に誘導することは事実上不可能なのである。だから、この手のPOV式の映画はホラー映画のような単純なドラマしか持たないジャンルに適しているのだ。加えて、本作の場合カメラの視点が死者の魂であるため、そこにモノローグといった心理の発露は一切生じてこない。これでは主人公の葛藤すら読み取ることも難しい。

 G・ノエは前作「アレックス」(2002仏)で物語を逆回転させる特異なスタイルで、運命の残酷性というテーマを描いて見せた。今回も「死」から「生」の旅という輪廻転生をモティーフにしているという点で、ある種前作に通じるような特異なドラマ構成を持っている。スタイルにこだわるのも悪くは無いが、そろそろ真っ当にドラマを語ることもして欲しい。
[ 2010/06/04 01:40 ] ジャンルファンタジー | TB(0) | CM(0)

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