「8Mile」と「SLAM」といったあたりの作品とよく似ているラッパー映画。
「ハッスル&フロウ」(2005米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ) メンフィスの田舎町。ポン引きをしているDジェイは、閉塞感漂うこの町で荒んだ生活を送っていた。ある日、行きつけのバーで人気ラッパー、スキニーが来訪することを聞きつける。実は、彼とは昔ハッスル(裏稼業)した仲だった。二人ともラッパーになる夢を見ていたが、今や彼は押しも押されぬ人気者。一方、自分は日陰のような人生を歩んでいる。このまま負け犬のままで終わりたくない‥そう思ったDジェイは、旧友でサウンド・エンジニア、キーの協力を得て、スキニーに渡すデモテープを作り始める。
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(レビュー) 負け犬人生を送ってきた中年男がラッパーになることを夢見て悪戦苦闘する音楽映画。
熱くなれるものがあるというのは素晴らしいことだと思う。たとえ、日の目を見ずとも、誰からも評価されなくとも、「やりきった」という満足感があればその人にとっては貴重な人生の財産となろう。結果よりも挑戦することに意義がある。スポーツではよく耳にする言葉であるが、これは人生にも当てはまる言葉だと思う。
そして、この言葉は青春映画ではお馴染みのテーマでもある。
本作の主人公Dジェイは社会からドロップアウトした中年男である。これからの人生に夢膨らませる少年少女達と違って、人生をやり直すには手遅れの男である。しかし、彼はそれでも尚、過去に果たせなかったラッパーになる夢を追い求めていく。これは正しく“挑戦”である。基本的なプロットは、夢を追いかける青春映画とほとんど変わらない、実にオーソドックスなものに思えた。
ただ、テーマは分かるのだが、正直なところ本作の主人公Dジェイに感情移入できるかと言えば「否」である。
本作は人生の敗北者を描くルーザー映画である。ルーザー映画の場合、ダメダメな主人公をいかに愛着が沸くように見せるかが、作劇する上での一つの鍵だと思う。例えば、主人公よりも更にダメな奴がいてそいつを助けるとか、極上のヒロインが現れて惨めに振られるとか‥。そういったエピソードの積み重ねによって、主人公に対する同情、愛着が沸き起こり、結果的に人間的な魅力に繋がっていくわけである。
しかし、本作のDジェイにはそういった魅力が皆無である。そもそも何かを得るためには、そのための努力と犠牲を払わなければならない。それが、果たしてDジェイにあっただろうか?周囲の物分りの良い人間に支えられるだけで、彼自身は何の犠牲も払っていない。それどころか、相変わらず売春婦に対する傍若無人な振る舞いは改まることなく、内面的な成長は一切見られない。これでは彼に共感しろというのが無理な話である。それゆえ、彼が作った歌詞が周囲の人々を惹きつける理由にも、全く説得力が感じられなかった。
ドラマの語り方の問題もあろう。おそらく彼の過去には凄惨な生い立ちがあったのだと思う。しかし、映画はそこの部分を具体的に描いていない。ここをジックリと見せてくれていれば、彼に対する同情の念も生まれ映画全体がまた違った印象になっていたかもしれない。テーマは決して悪くはないのだが、ドラマの見せ方の点でかなり損をしていると思った。
主要キャストは概ね好演している。Dジェイのルーザーっぷりも中々板についていた。
余談だが、”ビッチ”は女性を罵倒する言葉だと思っていたが、男にも使うことを本作を見て知った。