教示的な意味を含んだ中々の力作。
「プレッジ」(2001米)
ジャンルサスペンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 退職間近の警官ジェリーは、少女暴行殺害事件で現場へ急行した。凄惨な光景に胸を痛めるジェリー。彼はその足で被害者の両親宅に事件の報告をしに行った。そして、両親に犯人逮捕を誓う。程なくして目撃証言から知的障害の青年が逮捕される。しかし、ジェリーには釈然としなかった。どうしても彼が犯人には思えなかったのである。退職後、バッジを外した彼は独自に調査を開始する。そして、被害者少女が描いた1枚の絵から別の犯人像を割り出す。
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(レビュー) 少女暴行殺害事件を捜査する元警官の姿を、周囲の人間関係を交えながら描いたヒューマン・サスペンス作品。
監督は俳優でもあるS・ペン。シリアスなトーンを基調にしながら、犯人追跡のサスペンスと孤独な中年男の悲哀を手堅い演出で筆致している。
前作「クロッシング・ガード」(1995米)で復讐の虚しさ、無意味さを説いたペンだが、ここではそこから更にもう一歩踏み込んだテーマに取り組んでいることが分かる。
被害者両親の復讐の念を受け取ったジェリーは、全ての時間と資産を費やして犯人逮捕に執念を燃やす。最初は正義感からくる無垢な行動に見えるのだが、途中からほとんど病的と言っていいほどの”盲信”に変容していくのが興味深い。そこまで彼を復讐の鬼に駆り立てたのは何だろうか?そこに今回のテーマがあるように思う。
このドラマには重要なアイテムとして序盤に、被害者両親の十字架が登場してくる。ジェリーはいきなり十字架を渡されて驚くが、見ているこちらも少し唐突に思えた。この場面にはプレマイズを要したと思うが、ともかくジェリーはその十字架に犯人逮捕を誓わされる。
そして、中盤に登場する神父の存在。ジェリーは彼を犯人ではないかと疑い始める。一番犯人らしくない人物が実は犯人だった‥というのはよくあることなので、このあたりのサスペンスは中々面白く見れるのだが、それが神父というところに何か宗教的な意味を求めずにいられない。
そして、極めつけはラストに出てくる「SAVE」という文字が書かれた看板である。これにも宗教的なメッセージが隠されている。このようにこの映画には宗教が色濃く投影されたアイテム、キャラクターが要所要所に登場してくるのだ。
キリスト教では復讐はいかなる場合でも固く禁じられている。新約聖書には「復讐するは我にあり」という言葉がある。この場合の「我」とは人間のことではなく神のことを言っている。つまり、罪を犯した者に対する断罪は神によってのみ成されるのであり、人が人に罰を与える事はキリスト教では禁じられているのだ。この事を考えると、このドラマの被害者両親、ジェリーの復讐はキリストの教えからすると誤ったものになる。彼等もまた加害者同様、神の道を踏み外した罪人ということになろう。
したがって、この結末は当然の帰結という見方が出来た。あるいは聖書に登場する訓話のように捉える事も可能である。前作に続き復讐をテーマにしているが、今回はそこに宗教観を持ち込んだ所に新味を感じた。
尚、彼は若い頃にはかなりの”やんちゃ”をしていたが、ここ最近の監督作品を見るとかなり保守的な思想に傾倒しているような気がする。最新作の
「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007米)でも、主人公の禁欲的な生き方に、やはり教示主義的なものが読み取れた。昔に比べると随分と人生を達観できるようになったな‥と少し感慨深くもある。
ドラマに関しては、欲を言えばもう少しパンチが欲しかったか‥。サスペンスと人間ドラマの二つで責めたところは良いのだが、犯人探しのサスペンスにもう一捻り欲しい気がした。
一方、ジェリーの孤独感に迫る人間ドラマの方は、演者の好演のおかげもあって面白く見れた。ジェリーとウェイトレスをしているシングルマザー、ロリとの交流が良かった。
ジェリー役はJ・ニコルソン。渋い演技が◎。ベニチオ・デル・トロも登場するが、こちらはかなり作りすぎな感じを受けた。ただ、少ない登場シーンながら強烈な存在感を見せつけたあたりは流石は個性派俳優である。他にも、渋いキャスティングが揃っていて安定したアンサンブルが見られる。
尚、何故ヤマアラシのキーホルダーが登場するのか?府に落ちないまま見ていたが、後で調べてみたらここにもきちんと理由があった。ドイツの哲学者ショーペン・ハウアーの寓話に”ヤマアラシのジレンマ”というものがある。ヤマアラシは体の棘が刺さって他のヤマアラシに近づけないというジレンマを持っていて、これは心理学的には自己自立の実現と他者との一体感の難しさを意味すると言う。なるほど‥。ということは、このキーホルダーを心理学的見地から紐解けば、孤独のメタファーということになろう。ジェリーの孤独を表すアイテムであり、人間は本来孤独な生き物であるという意味にも繋がってきそうだ。本作には原作があって、そちらは未読であるが、おそらくこのアイテムにはそのあたりの意味も明示されているのかもしれない。映画の中ではそれにあたる文言、あるいはヒントになるようなものが無かったので意味が分からなかった。これは案外重要だと思うのでもう少し劇中に何らかのフォローが欲しかったかもしれない。