一言で言えば”奇妙な映画”。
「注目すべき人々との出会い」(1979英)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 19世紀後半のアルメニア。少年グルジェフは父に連れられて、ある祭事を見に行った。各地の楽器演奏者が一同に集い魂の音を奏でるその光景に彼の心は震えた。以後、グルジェフは蘇った死者の弔いを目撃したり、悪魔に取り付かれた少年を目撃することで、神の世界と自己存在の意義について探求するようになっていく。数年後、成人したグルジェフは機械工員として働くが、幼い頃からの探究心は今だ覚めやらず、友人達と発掘作業に明け暮れていた。そんなある日、一つの古文書を発見する。そこには紀元前2千五百年の秘密教団サルムングの記述があった。グルジェフは全財産をはたいてサルムング教団を捜す旅に出る。
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(レビュー) 今世紀初頭の神秘思想家ゲオルギイ・グルジェフの伝記映画。グルジェフは名前だけは知っていたが、その人物像についてはほぼ無知である。本作を見た後にネットで色々と調べてみたが、更に興味が掻き立てられた。
彼は生涯、自己存在と宇宙について探求し続けた哲学者である。ある意味でロマン溢れる研究者と言っていいだろうが、彼の評価は様々である。偉大な思想家という人もいれば、魔術師、超能力者等、ほとんどオカルティックな形容をする人たちもいる。要するに一言では形容し難い人物なのである。果たして本当の彼はどんな人物だったのか?この映画から少しだけそれが見えてくる。尚、原作はグルジェフ本人による自叙伝である。
グルジェフは全てを投げ打って太古の秘密教団サルムングを求めて旅に出る。古文書の記述によると教団が存在していたのは紀元前2千5百年。旧約聖書の時代、一説によればノアの箱舟の時代である。彼は存在するかどうかも分からない、この太古の軌跡を信じ、それに触れることで自分が変わるのではないか?世界の成り立ちを知る事が出来るのではないか?という思いに取り付かれていくようになる。
映画は彼の幼少時代から、サルムング教団探索の旅までを描いている。しかし、ここまでは言わばグルジェフという人間の草創期に過ぎない。彼はその後、欧州各地を巡り思想家として着々と功績を積み上げていく。残念ながら、この経緯については別書を参照ということになるが、いずれにせよ彼の人物像、それを垣間見れるという点では興味深く見れた。
それにしても、何とも奇妙なテイストを持った作品である。本作は形態としてはドキュメンタリー・タッチのロード・ムービになっている。若者が旅をしながら少しずつ成長していくという極めてオーソドックスなプロットだが、何分テーマを語る上での不純物が多い上に、旅の目的に到達したときの達成感が希薄なので安易な評価をしずらい。そもそも、グルジェフの旅はこの先もまだ続くのであるから、ドラマ的には決して完結しているわけではない。したがって、純粋に”ドラマ”としての魅力は余り感じられなかった。
ただ、グルジェフが道中で出会う賢者や伝道師が余りにもリアル過ぎる点、彼らとのやり取りが余りにも生々しい点等、この映画そのものが神秘を持ったものとして見る者を強く引き込む力を持っていることも確かである。まるでカルト映画の金字塔「エル・トポ」(1969メキシコ)にも通じるような、不思議な魅力を持った作品と言える。
また、グルジェフの未知への探究心を”特異”と一蹴できないような気もする。彼が何故そこまで未知なる物に惹かれたのか?その理由を考えると、人間の本性、つまり人は本来知識を欲する生き物なのだ‥ということも分かってくる。
哲学者アリストテレスは「人間は生まれながらにして知らんことを欲する」と言った。だとすると、グルジェフがそうであったように、我々人間は生涯探究し続ける運命にあるのかもしれない。