映画監督北野武の自己投影映画。今の思いが正直に吐露されている。
「アキレスと亀」(2008日)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 絵を描くのが大好きな少年真知寿は、将来画家になることを夢見ていた。しかし、父の会社が倒産したことで彼の人生は一変してしまう。父は首を括って自殺し、母もその後を追うようにして他界した。親戚の家に預けられた真知寿は孤独の淵に落ちる。大好きな絵を描くことと、地元を放浪する知的障害の画家との交流だけが心の慰めとなった。数年後、成長した真知寿はアルバイトをしながら美術専門学校に入学する。友人に囲まれながら黙々と絵を描き続ける日々が続く。しかし、中々芽が出ず行き詰まりを感じ始める。
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(レビュー) 不遇の画家の半生を綴った人間ドラマ。
監督・脚本・主演は、今やフランスで熱狂的な支持を受ける北野武。日本では彼の作品はヒットしないのに本当に不思議な現象である。今作の主人公真知寿のネーミングは、20世紀前半に活躍したフランスの画家アンリ・マティスからきている。当然、自身の作品を評価してくれるフランスに対する相思相愛の表れだろう。
ここ最近の北野作品は、「監督・ばんざい!」(2007日)、「TAKESHI'S」(2005日)と、極めて異色な作品が続いた。正直な所、この2作品に関しては余り面白いとは思わなかった。物語が希薄でショートコントの寄せ集めを見せられているようで何だか味気ない。映画監督北野武の迷走。それがそのまま表出したような作品だった。本作にも若干まだその迷走は伺えるが、少なくとも”物語る”ことへの回帰は感じられた。どうにか劇映画としての体裁が整えられている所に少しだけ親近感を持てる。
迷走といえば、真知寿=当時の監督本人の姿にダブって見えてくる所は大変興味深い。海外では成功しても日本での評価は今ひとつ‥。このあたりのことは北野監督本人、かなり意識しているようで、それが本作の自己投影的な主人公の造形に繋がっていると想像できる。作家としての正直な吐露。それを窺い知る事が出来る。
ただ、オチは今ひとつ腑に落ちなかった。本作のテーマは売れない作家の葛藤である。それをどうして突き詰められなかったのか‥。
画家の苦悩を描いた作品では、以前このブログで紹介した
「ポロック 2人だけのアトリエ」(2000米)がある。芸術がいかに残酷で恐ろしいものかが克明に記されていた。元来、芸術家とは頑固で浮世離れしていて作品の生みの苦しみの中で一生を終える者が多い。ゴッホしかり、モディリアーニしかり、ポロックしかり。中には死んで初めて評価されるなんて人もいるくらいで、大方芸術家は不幸な人生を送るというのが常なのである。
それが、どうして安易に美談として片付けてしまったのか。むろん、この結末に持っていくためのドラマがきちんとはかられていたなら、多少の予定調和があったとしても、ある程度の割り切りの上で理解することは出来る。しかし、この結末は余りにも唐突過ぎる。
また、これはもはや相性の問題としか言いようがないのだが、北野映画のギャグのセンスは少々苦手である。
今回で言えば、首吊り自殺を発見するシーンのリアクションが挙げられる。微妙にタイミングをずらすことでオフビートな笑いを生み出そうしているのだろうが、大仰過ぎて笑えない。亡き母の死に顔、学生達の賑やかな創作風景。このあたりのギャグも狙ってやっているのだろうが、わざとらしく写ってしまった。思うに、タイミングの取り方、効果音演出、映像演出が自分の感性に合わないのだろう。笑いの感性は千差万別であるから、こればかりは仕方がない。コメディは本当に難しい。