アメリカン・ニューシネマ時代の異色の西部劇!T・スタンプが◎
「血と怒りの河」(1968米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルアクション
(あらすじ) アメリカ人青年アズールは、運命の悪戯で幼い頃よりメキシコの盗賊オルテガに育てられた。ある日、オルテガ一味はアメリカ人の村を襲撃する。そこでアズールは、仲間にレイプされそうになった村娘ジョアンを助けた。その際、彼は深手の傷を負う。アズールは医者をしているジョアンの父の手当てを受け、名前をブルーと改名して村で暮らすことになった。そこに彼を連れ戻そうとオルテガがやって来る。
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(レビュー) メキシコ人の盗賊として育てられた青年が、アメリカ人父娘との交流を通して出自を見つめなおしていく異色の西部劇。
オープニングはマカロニ・ウェスタン風のアクションシーンで始まり高揚感がある。その後は、アズール改めブルーの周縁を描く人間ドラマに傾倒していく。そして、クライマックスは西部劇の王道をいくような派手な銃撃戦が展開され、ブルーのアイデンティティーに一つの答えが提示される。この結末には、アメリカ人でありながらメキシコ人として育てられたブルーの葛藤が集約されていて中々感動的であった。
見所は何と言っても、ブルーを演じたT・スタンプのニヒルな佇まいである。どこか悲しげでありながら、そこはかとなく狂気を孕んだ表情が魅力的だった。
T・スタンプと言えば、「コレクター」(1965米)の異常な蝶収集家の怪演が忘れ難い。屈折したフェチを持った孤高性は見る者の心を掴んで離さなかった。スタンプはこうした”繊細さ”と”異常さ”を併せ持った演技をやらせると実に上手い。そして、そのキャラクター性は今作のブルーにも共通しているように思った。彼はメキシコ人とアメリカ人との狭間で迷う異端者である。村人たちを恨めしそうに見据える表情に、やはり自分はアメリカ人にはなれないのか‥という孤独が見え哀愁を誘う。異端者という“異常”な存在。アイデンティティーを掴もうと葛藤する“繊細さ”。この二つからブルーのキャラクターは掘り下げられている。
本作は映像も美しい。青い空と緑の大地が織り成す雄大な自然を、カメラは詩情溢れるタッチで切り取っている。アクションシーンのカメラワークも素晴らしく、特に前半の村の襲撃シーンは斬新な映像演出が見られる。稲穂の中の追跡とオルテガの息子が村人に捕まり射殺されるシーンは、荘厳さも感じられる。そして、極めつけはラストの空撮である。正に「血と怒りの河」というタイトルを印象付けるような長回しショットで映画は幕を閉じる。
ただし、残念ながら中には今ひとつと感じた演出も少なくはない。
例えば、クライマックスの銃撃戦は、前半の襲撃シーンに比べるとアクション演出は平板で、派手な銃撃戦を繰り広げている割には現場を大局的にしか捉えておらず緊迫感が薄い。
また、シナリオもブルーの葛藤を追う前半は面白く見れるが、後半の安易な展開は惜しまれる。ジョアンにはジェフという恋人がいてブルーを交えた愛憎ドラマが用意されているのだが、これが消化不良のまま終わってしまったのは残念だ。決着の付け方が”なあなあ”でパンチに欠けると言わざるを得ない。