異色のサスペンス作品。
「ザ・シャウト/さまよえる幻響」(1978英)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) ある精神病院でクリケット大会が開かれる。スコアラーとしてやって来た青年ロバートは、同じくスコアラーとして同席したクロスリーから不思議な話を聞かされる。彼はここに入院している前衛音楽家アンソニーの妻を寝取ったと言うのだ。更に、彼は”声”で他人を殺せると言い出し始める。
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(レビュー) ”声”が殺人アイテムになるという設定もユニークだが、物語もかなりユニークな異色のホラー・サスペンス作品。
物語は殺人絶叫を持つ男クロスリーがロバートに話して聞かせる回想形式で進んでいく。浮浪生活をしていた彼はアンソニーの家庭に上がりこみ、様々な奇行で夫婦を翻弄しながら妻を誘惑する。たわいもない不倫劇と言えばそれまでだが、男女3人のスリリングな駆け引きは中々目が離せなかった。クロスリーのミステリアスな造形も魅力的だった。
そして、この映画の見所は何と言っても、クロスリーがその”声”で人を殺す場面である。中盤でそれが登場するのだが、このシーンはインパクトがあった。映画は全体的に静かなトーンで綴られていくが、それがかえってこの大爆音とも言うべき絶叫シーンを際立たせている。
もっとも、本作は最初から娯楽的なホラー、スリラー映画を狙って作られているわけではない。何しろ監督・脚本はポーランドの異才J・スコリモフスキである。A・ワイダの
「夜の終りに」(1961ポーランド)やR・ポランスキーの「水の中のナイフ」(1962ポーランド)で脚本を書いたことでも有名な才人である。両作品とも息苦しいほどの緊張感が漂うダイアローグ劇で、大いに見応えがあった。そんな彼が監督をつとめた作品であるから、今作もただの見世物小屋的な映画にはなっていない。
アンソニーが音響の世界にのめりこむ余り妻との関係が空疎になっていく様は、どこか寒々しく写り、まるで「水の中のナイフ」における倦怠期の夫婦とダブって見えてくる。そう言えば、「水の中のナイフ」も妻が寝取られる話だった。夫婦の中に異端者が入り込みその関係が壊されていくというプロットは本作とよく似ている。おそらくスコリモフスキとしては、建前上ジャンル映画という形を取っているが、本当に描きたかった部分はこの不倫劇であり、夫婦関係の破綻それ自体なのだろう。
尚、語り部がクロスリー自身にあり、彼の回想が虚言なのか、それとも真実なのか?証明する者がいないため見終わっても今ひとつ判然としない。ラストの妻の所作にしても、彼女はクロスリーを愛していたのか?それともアンソニーを愛していたのか?その解釈については真っ二つに分かれよう。
しかし、考えてみれば元来愛とは白黒はっきりとつけられない、複雑にして怪奇なモノである。この映画は、愛は幻影に過ぎないということを、虚実をぼかした作劇で暗喩しているのだろう。かなり捻った作りだが、見終わった後に色々と考えさせられた。
寝取られるってことは、奥さんと熱烈なキスとかしちゃうんですか!?
ありますよ。それだけを目当てに見ると落胆しかねない映画になりますが。。。
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