クライマックスにギドクの真髄が感じられる。
「絶対の愛」(2006韓国日)
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス
(あらすじ) プロの写真家ジウは、2年間付き合っている恋人セヒとの関係に物足りなさを覚えていた。ついつい他の女に目が行ってしまいセヒを怒らせてしまう。そして、彼女はジウの前から姿を晦ましてしまった。それから半年が経った頃、彼の前にスェヒという謎めいた女性が現れる。2人は惹かれあっていくのだが‥。
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(レビュー) 美容整形をした女の壮絶な愛のドラマ。
製作・監督・脚本は鬼才K・ギドク。男女の愛を過激に綴った過去作品は、いずれも一筋縄ではいかない強烈な個性を持った作品である。ただ、ここ最近の作品はそれまでの特徴である観念的なムードが幅を利かせすぎて今ひとつ好きにはなれなかった。
例えば、以前ここでも紹介した
「弓」(2005韓国)という作品は、セリフを排した緊張感溢れる演出の数々にギドク・スタイルが認められるが、いかんせんクライマックスの描き方に不満が残った。執拗なまでの表現主義への傾倒、それがドラマチックさを失していたからである。独自のスタイルを追い求め過ぎた結果、こちらの理解の範疇を超えるものいなってしまった‥という印象である。
しかし、今回は「弓」のような表現主義傾向は弱まり、ドラマに比重を置いた作りになっている。初期作品に回帰するような明快な演出が大変見やすい。
物語も、これまでのギドク作品同様、男女の愛のほつれをひたすらストイックに追い求めていく‥というものになっている。今回は美容整形が流行する韓国の社会背景を題材にしている。果たして、容姿にこだわることにどんな意味があるのか?その人の価値を決めるの中味ではないか?そんな問題提起が感じ取れた。
本作のセヒは整形して別人になりすましてジウに近づき、再び恋人同士になっていく。しかし、幸せも束の間、彼女の中で徐々に虚しさが募っていくようになる。これは偽りの”恋愛ごっこ”でしかないのではないか?という疑問が芽生え始めるのだ。ジウを騙していることへの自戒。あるいは、ジウは自分の外見しか愛していないのではないか?という不安。そういった葛藤が中々見応えがあった。
この歪な恋愛はギドク作品では非情に重要なモティーフとなっている。現に、過去作品の中でも様々な形で表現されていた。例えば、娼婦とヤクザ、ストーカーと人妻、祖父と孫等。そして、絶対に出会うはずことのない男女は、罪悪感、あるいは偽りの気持ちを抱えながら、衝突し傷つけあいながら結ばれていくのだ。見ていて決して幸福な気持ちにはなれないが、その姿には心揺さぶられるものがある。ギドクは常に愛の不信、愛の残酷さといったものを描き続ける作家なのである。
今作で最も印象に残ったのはクライマックスの狂気的な演技合戦だった。また、結末にも鳥肌が立ってしまった。これほどのインパクトはそうそうないだろう。ギドク作品でしか味わえない衝撃である。正にギドク映画の真骨頂という感じがした。