女王と従僕の切ないラブロマンス。
「Queen Victoria 至上の恋」(1997英)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 1861年、ヴィクトリア女王は夫であるアルバート公を失い喪に服す。3年間世間に姿を見せず小島の宮殿に篭り続けた。そこに乗馬係として従僕ブラウンがやって来る。彼は塞ぎ込みがちな女王を外へ連れ出すことでし少しずつ心を開いていった。やがて二人は公私に渡り交流を深め、何物にも変えがたい絆で結ばれていくようになる。しかし、それはゴシップ記者の格好のネタにされた。周囲は二人の関係を引き裂こうとする。そこに政界騒乱の波紋が及び‥。
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(レビュー) 女王と従僕の恋を綴った文芸ロマンス。
ヴィクトリア女王を演じたJ・デンチの圧倒的な演技に魅せられる。喪に服し周囲に心を閉ざす序盤から、ブラウンとの交流で次第に笑みを取り戻していく中盤。そして、切ない恋心を体現する後半。メリハリをつけながら見事な演技を見せている。
人間味に溢れた従僕ブラウンの造形も良い。彼は相手が誰であろうと、本音でズケズケ言うタイプの人間である。ヴィクトリアを“女王”としてではなく一人の“人間”として扱う。過ちがあれば指摘し、下々の暮らしを教えんと下民と同じテーブルにつかせる。
女王はブラウンのおかげで世界を見聞し、自ら律することを覚え、夫の死の悲しみから立ち上がっていく。そして、時に父のように、時に親友のように献身的に仕えてくれるブラウンに、密かな想いを寄せていくようになる。しかし、これは身分の差から決して実らぬ恋である。この恋愛衝動は見ていて実に切なくさせられた。女性ならこんな一途な恋をしてみたい‥、そんな願望を抱きながら女王と同じで目線で本作を見れるのではないだろうか。まるで少女マンガのようなストーリーだがこの明快さは本作の強みである。感情移入もしやすいと思う。
中盤から君主制対民主制の政変が起こってくる。これについてはあくまで物語の背景に抑えられていてドラマを難解にすることはない。むしろ、この政変は女王であるヴィクトリアの身に迫る暗殺の危機‥といったサスペンス的な面白さを生み、更には彼女を守るブラウンの勇敢さが、さしずめ「ボディガード」(1992)におけるK・コスナーのようなヒーロー性を演出する。この政変はドラマを上手く盛り上げているように思った。
文芸作品らしい美しい景観も堅実に作られている。ハリウッド大作のような豪華絢爛とまではいかないものの、作品世界に説得力を与えんとするなら、これ位は必要にして十分と言えるだろう。
ハリウッドということで言えば、監督のJ・マッデンは本作の成功でハリウッドへ渡り、次回作「恋に落ちたシェイクスピア」(1998米)を撮った。アカデミー賞も受賞し興行的にもヒットを飛ばした「恋に落ちた~」は、彼にとっての大きな成功だったろう。その後が今ひとつパッとしないのは残念であるが‥。
同じ文芸ドラマということで本作と比較してみると、美術、衣装といったプロダクションデザインについては、さすがにハリウッドとの力量の差で「恋に落ちたシェイクスピア」の方に軍配が上がってしまう。しかし、ドラマ自体はむしろ今作の方がストレートで力があるように思った。
尚、「オペラ座の怪人」(2004米)や「300<スリー・ハンドレッド>」(2007米)のG・バトラーが本作で映画初出演を果たしている。