メロドラマの名匠ここにあり。
「天はすべて許し給う」(1955米)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 閑静な高級住宅街に住む未亡人キャリーは、大学生の息子と高校生の娘と暮らしている。ある日、彼女は庭師をしている青年ロンの苗木園に赴く。ロンは優しく誠実な青年でキャリーの心は徐々に惹かれて行った。その後、二人は逢瀬を繰り返す。しかし、年も身分も違いすぎるため、たちまち周囲の悪評を呼んだ。そのせいで子供達も苦しむことになる。キャリーはロンとの関係を諦めるしかなくなるが‥。
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(レビュー) 未亡人と庭師の純愛を描くメロドラマ。
世間の反対に晒されながら、一世一代の恋を貫くヒロインをJ・ワイマンが好演している。彼女の事は初見であるが、プライベートでは元大統領で元俳優でもあるR・レーガンの夫人第一号という経歴を持っている。結婚と離婚を繰り返す恋多き女性で、そのあたりの性格を反映してか、演技の方も中々深いものを感じさせる。今作では不倫に溺れる未亡人の葛藤を見事に表現している。
監督はメロドラマの名匠D・サーク。古典的でシンプルなドラマながら、様々な伏線と小道具を巧みに利用しながら洒落た味わいの恋愛劇に仕上げている。ハトやテレビ、亡き夫の忘れ形見、苗木、このあたりのアイテムの使い方には唸らされるばかりだ。
また、サブキャラを周縁に配すことで上手く物語も展開されていると思った。
ゴシップ好きな近所のオバちゃん、下心見え見えで言い寄ってくるやもめ男、一家を温かく見守る頼もしい恩師等、人物のコンストレイションが見事にはかられている。また、キャリーの二人の子供達にも性差というキャラクターの相違を持たせている。息子にはエディプスコンプレックスを、娘には同性としての共感を持たせ、母の不倫に対する夫々のリアクションに違いを見せている。これも興味深く見れた。
サークの演出は基本的には堅実である。奇をてらったものは見られないが、メロドラマの名匠と言われるだけあってラブシーンの演出には上手さを感じた。キャリーの亡き夫や子供たちに対する申し訳ないという思いが、ロンとのキスに一寸の”間”を作ってしまう。ワンクッション置いたエロスにはかなりのカタルシスを覚えた。たかがキスとはいえ、男女関係に奥ゆかしさを求められた朴訥な時代である。この“もったいぶった”見せ方にはサークのこだわりが感じられよう。
ただ、欲を言えば、相手役であるロンのバックストーリーにはもう少し奥行きを持たせて欲しかった。それと、独立した子供達の変化が少し唐突に見えてしまったのもいただけない。90分足らずの作品なので、このあたりの描写不足は仕方がないといったところかもしれない。