ジャニス・ジョプリンをモデルにした音楽映画。B・ミドラーの熱演が胸を打つ!
「ローズ」(1979米)
ジャンル音楽・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1960年代後半、人気ロック歌手ローズは過密スケジュールがたたり、精神的に追い詰められていた。マネージャーのラッジに1年間の休養を申し出るが、彼は契約をたてにそれを受け入れなかった。ローズの次の新曲も決まっていた。それはかつての名曲のカバーソングである。ある夜、彼女はそのオリジナルソングを歌った大御所歌手の楽屋を訪れる。しかし、ここでついに彼女のストレスは爆発する。無礼な態度を取った挙句、大御所歌手のドライバー、ヒューストンと意気投合して夜の街に失踪したのだ。二人はそのまま恋に落ちる。その後、ローズは彼を連れてツアーに出るのだが‥。
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(レビュー) 人気ロック歌手ローズの壮絶な半生を描いた音楽映画。本作はジャニス・ジョプリンをモデルにした映画としてよく知られている。
ローズ役はB・ミドラー。歌手であり女優である彼女のステージ・パフォーマンスは、本作最大の魅力であろう。前半のニューヨークのライブシーンでは、MCを含めた彼女のエネルギッシュな歌唱が堪能できる。また、クライマックスの悲壮感漂う歌いっぷりも胸を打つ。尚、エンディングの「The Rose」は名曲だと思う。この曲は以前このブログで紹介した
「輝ける女たち」(2006仏)でも印象的にカバーされていた。
物語はロックスターの栄光と挫折という、この手の音楽映画ではお馴染みの題材で特に新味はない。ただ、テーマがストレートに発せられていて力強い作品になっている。
ローズの葛藤を克明に切り取った演出もすこぶるパワフルで、このあたりは監督M・ライデルの確かな手腕が感じられた。彼は俳優出身の監督であるが、俳優としての仕事よりも監督としての仕事の方が多いくらいで、演出は中々手馴れている。C・イーストウッドについても同様の事が言えるが、俳優出身の監督というのは、演者のベスト・パフォーマンスを引き出す手腕に長けているような気がする。自分も演じる側にいたからこそ、俳優の「こう演じたい」という欲求を適確に汲み取ることが出来るのだと思う。技量に凝る監督達と違ってこうした生真面目な演出は時として「地味‥」と一蹴されてしまうこともあるが、実際には監督の資質にとって最も大切なことのように思う。
例えば、クライマックス直前の電話ボックスのシーンなどは、実に堅実に撮られている。B・ミドラーの表情を長回しで追いかけながら、寸分漏らさず彼女の絶望感を画面に焼き付けている。このリアリズムな演出が異様な迫力をもってこちら側に迫ってくる。また、シーンの背景に彼女の過去の思い出が詰まったハイスクールを持ってきたセンスも見事で、それによって彼女の悲壮感がいっそう際立たることになった。こうした適確な演出があって初めてドラマは説得力を持つに居たり、作品としての力強さも生まれてくるものである。
但し、クライマックスにかけての演出に若干の不備が感じられたのは残念だった。ここはB・ミドラーのライブ・パフォーマンスに救われたという感じがした。
ところで、ジャニスとB・ミドラーでは全然似ても似つかぬキャラクターであり、何故彼女がこれを演じようとしたのかは大変気になる所である。ジャニスはその半生からすると、どちらかと言うと影を持ったキャラであり、B・ミドラーは基本的にはコメディエンヌ的な資質を持った女優である。それがどうしてジャニスを演じようとしたのか?
昨今のハリウッド映画では特殊メイクをしてまで本人になりきる、言わば“なりきり”演技が流行しているが、本作はそれとは全く違う。確かにB・ミドラーはジャニスに似せて歌っているが、それはあくまで彼女の中で作り上げたキャラクターであり、ジャニスの“なりきり”演技ではない。
これは想像だが、彼女はジャニスに憧れたのではないだろうか?自分とかけ離れたキャラクターを取り込んで、今までとは違う役を演じることは、俳優にとって最高に魅力的な仕事である。時として、その意外性が思わぬ新境地を開くこともある。逆にそれが裏目に出る場合もある。彼女はその“賭け”に出たのではないだろうか。
そういうことなので、本作はあくまでジャニスをモデルにした作品であり、決してジャニスそのものの伝記映画ではない。このことだけは、見る前に知っておいた方がいいだろう。
尚、ローズというネーミング・センスは中々洒落ていて良いと思った。棘のある薔薇はただ美しく咲くのみである。正に本作のローズというキャラクターも、薔薇のような存在だったのではないだろうか。彼女は誰からも縛られない生き方をした孤高のアウトローである。それは美しく悲しい薔薇を連想させる。