普通なら深刻になるところを大変見やすく作られている。
「幸せのルールはママが教えてくれた」(2007米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) レイチェルは夏休みの間、母に連れられて祖母ジョージアの家に預けられる。しかし、母はすぐに男の元へ走って行ってしまった。置き去りにされたレイチェルは田舎の暮らしに退屈を持て余し、町に出てモルモン教の青年をナンパするなど奔放な振る舞いを繰り返した。そんな彼女を古風で厳格なジョージアは厳しく諌める。ある日、レイチェルの前に良き理解者が現れる。それはアルバイト先で出会った獣医師サイモンという中年である。彼は妻子を事故で亡くしたばかりで孤独だった。そんな彼を慰めようとレイチェルは自分の過去のトラウマを打ち明けるのだが、これが周囲に思わぬ騒動を巻き起こす。
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(レビュー) 過去のトラウマから愛を信じられなくなってしまった少女。新しい恋人と上手くいかない母。そんな二人を優しく見守る祖母。3世代に渡る女性の悩みをしみじみと綴ったヒューマンドラマである。
本作の見所は、この3人を演じた女優陣の演技合戦だと思う。三者三様、夫々に個性的な女性像を体現していて面白い。
中でも、母親役を演じたF・ハフマンは特に良かった。彼女はレイチェルを捨てて恋人の元へ走る。しかし、相手はハッキリしない男で、本当に自分の事を愛してくれているのか?という不安に駆られる。彼女はここでは完全に恋する女になっている。
その一方で、どんなに愛する男の元に走っても、やはり彼女はレイチェルの母親であることに変わりはない。母娘の関係は決して良いとは言えないが、レイチェルのために改心する後半は母親の顔になっている。
更に、彼女はジョージアにとってみれば実の娘となる。ジョージアに叱咤激励されることで、彼女は女性として、母親としての自信を取り戻していく。
F・ハフマンは、この複雑で重層的なニュアンスを含んだキャラクターを見事に演じ分けていると思った。これは大いに評価したい。
祖母役はJ・フォンダが演じている。言わずと知れた大女優だが、こちらは貫禄の演技を見せつけている。
本作は基本的にはビターなテーマを扱った作品である。しかし、作り自体は、かなりコメディライクに拠っている。その一番の功労は彼女の存在だと思う。フォンダは随所に軽妙な演技を披露し、ドラマの苦味を上手く中和している。ただし、出番が少ないのは残念である。娘と孫を影で支えるキーマンという重要な役回りだったので、もう少し見せ場があっても良かったような気がする。
レイチェル役は若手女優L・ローハンが演じている。性に奔放な小悪魔振りが板についていて、こちらも好演である。
ただし、キャラクター・タッチングには難があるように感じた。前半のビッチ振りを後半まで引っ張ってしまったことにより、彼女の人間的な成長、つまり過去のトラウマからの解放というカタルシスがぼやけてしまったような気がする。そのせいでドラマのカタルシスが薄まってしまったのは残念である。
また、彼女のドラマに関してはボリューム不足も感じられた。本来、今作は彼女が主役のドラマである。しかし、母親のドラマを必要以上に持ち込んだ結果、レイチェルのドラマは完全に割を食ってしまっている。いずれも踏み込み不足で中途半端な料理のされ方になってしまっているのは残念である。
そもそも、レイチェルの性格から言って、過去の“ある事件”を告発せずにいられるだろうか?テーマを追求する上でここは深く言及して欲しかった。それがないため、このドラマは説得力を失ってしまっている。
監督はG・マーシャル。この監督は与えられた課題で毎回及第点以上の仕事をするが、おそらく本人の中でも職業監督という意識があるのだろう。突出した作家性を前面に出さない分、クセが少ない監督と言える。ただ、その結果、印象に残るような作品はあまり残していない。したがって、今回のような舌触りの良い作品になってしまうのも、さもありなんという気がした。彼は監督以外に俳優やプロデューサー業もこなす人物で、まさに映画業界を渡り歩く「職業人」といった形容が当てはまるような人物である。すでにデビューしてから40年‥。誤解を恐れずに言うなら、こういうのが世渡り上手と言うのだろう。