見事なミステリーロマンス。
「つぐない」(2007英)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 1935年、イングランドのタリス家には、年頃の娘セシーリアとブライオニーという姉妹が住んでいた。兄が久しぶりに帰省するというので一家は晩餐の準備に追われる。セシーリアは使用人の息子ロビーと惹かれあっていたが、身分の違いからこの恋に踏み出す事が出来ないでいた。それをブライオニーが嫉妬の目で見る。実は、彼女もロビーの事を密かに想い続けていたのである。夕方になり兄が帰ってきて晩餐会が開かれる。そこに兄に招待されたロビーも参加した。ブライオニーは、セシーリアとロビーの密会を目撃してしまい‥。
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(レビュー) 名家の姉妹と使用人の禁断の恋を綴ったメロドラマ。
監督はJ・ライト、主演はK・ナイトレイ。このコンビは
「偏見とプライド」(2005英)に続き2度目となる。安定感のある演出、美しく洗練された映像等、堂々たる風格を持った作品に仕上がっている。割りと軽妙な作りだった前作に対して、今回はシリアスな愛憎劇に徹しており、前作とは違った見応えが感じられた。
物語は終始ミステリー調に展開される。まず、ブライオニーの視点で物語が始まり、彼女はセシーリアとロビーの密会を目撃する。そして、その後に時間が遡って、再びセシーリアの視点から物語が反復される。実はこういう経緯でこうなりました‥という舞台裏が、視点を変えることで解明される。
本作はブライオニーとセシーリアの視点、これを交互に切り替えながら謎と解答の連続で紡がれていく。見る側の興味を引き付けるという意味では、この構成は実に巧みなものに思えた。
尚、ブライオニーは小説を書くという趣味を持っていて、尚且つ妄想癖を持っている。このことを併せ考えると、彼女が目撃したセシーリアとロビーの逢瀬やその他の光景は、もしかしたら現実ではなくて全て彼女の妄想なのではないか?という疑問符も付きまとう。この判然としないところも含めて、このドラマは見る側の興味を引き付ける高い訴求欲を持っている。
映画は中盤に入ると、セシーリア、ロビー、ブライオニーの三角関係に一端の終止符が打たれる。そして、ここからは4年後を舞台にしたドラマに入っていく。ここでもこの映画は、4年という歳月を謎に伏せ、その間に彼らの間でどんなドラマがあったのか?それを回想形式で解き明かしていく。
このように本作は徹底して時勢を前後させながら謎解き形式で展開されていく。まるでミステリー小説を読んでいるかのように楽しめた。
ただ、この構成で1箇所だけ疑問に持った箇所があって、そこは残念だった。それは後半に入ってすぐ、ロビーの視点で物語が始まる所である。惜しいかな、そこに視点の曖昧さを感じてしまう。本来、ここはブライオニーの視点に立って彼女の悔恨が追求されていくべきパートではないだろうか。そこにロビーの視点が混入されると、「あれ?」という風になってしまう。全てがきっちりと綺麗にオブジェクトされていないところが、唯一惜しいと思うところだった。
テーマは“現実の厳しさ”ということになろうか。
今作はメロドラマとして十二分に完成された作品であるが、その一方でブライオニーの妄想癖という重要なキャラクター性を考えると、彼女がありのままの現実を受け入れていくまでの過程を描いた試練のドラマ、成長のドラマと言うことも出来る。書き換え可能な小説の世界、つまり妄想の中に逃げ込むブライオニーが、歳月を経て現実の厳しさを思い知っていくという痛切なドラマは中々見応えがある。この”現実の厳しさ”というテーマは「つぐない」というタイトルに端的に集約されているが、映画を見終わった後に、実はこれはかなり皮肉の効いたタイトルであることが分かってくる。
ちなみに、自分が本作で最も印象に残ったシーンは、従軍看護婦になったブライオニーが瀕死の兵士を看取るシーンだった。兵士は彼女に、前にどこかで会ったことがある‥と告白する。しかし、そんなことはあるはずがなく、その兵士は単に愛する人をブライオニーに重ねて見ているだけである。しかし、ブライオニーは彼の話を黙って聞きながら最期を見届ける。実に悲しいシーンであるが、ここはロビーの死をも暗示させる。実は、ロビーの死はこの映画では描かれていない。しかし、絵葉書というアイテムからも分かるとおり、きっとロビーもこの兵士と同じように戦場で美しい夢を見ながら息を引き取ったのではないか‥。そんな風に想像できてしまうのである。彼の死をはっきりと映像で見せず、敢えて暗示に留めたこのスマートな演出が実に見事である。
また、カオスと化したダンケルクの浜辺を驚異的な長回しで捉えたシーンも印象に残った。これほどにまで大きな舞台を一つにまとめた監督の手腕に唸らされる。大変見応えのあるロングテイクだった。