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病院で死ぬということ

癌患者とそれを診る医師の思いについて考えさせられる。
病院で死ぬということ [VHS]病院で死ぬということ [VHS]
(1994/08/26)
岸部一徳

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「病院で死ぬということ」(1993日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 山岡医師は癌の治療医である。彼は4人の癌患者を診療することになった。一人目は末期の大腸癌を患った川村という老人である。彼は同じく癌にかかった妻と同室で再会する。二人目は働き盛りのサラリーマン野村。彼は癌と知らずに入院して、手術をして元気に退院していった。3人目は中年女性池田である。彼女は今回が2度目の入院で、長期の闘病生活に精神的に追い詰められていくようになる。そして最後はホームレスの藤井である。彼は末期の食道癌患者として搬送されてきた。
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(レビュー)
 医師と4人の癌患者のエピソードを静謐に綴った人間ドラマ。

 癌との戦いは実に暗く苦しいものだが、それを声を大にすることなく淡々と描く事によって「生」の重みを実感させるような作りになっている。現実はドラマのようにはいかないけれども、本作を見た癌患者や周囲の人間が少しでも目の前の現実を冷静に受け止め、生きる勇気や希望を見出すことが出来れば、本作の存在意義もあるだろう。

 監督・脚本は市川準。孤独な作家の生活を淡々と綴った「トニー滝谷」(2004日)もそうだが、彼はCF出身の監督だけあって詩的な映像を撮るのが上手い。癌患者のエピソードの合間に、ドキュメンタリータッチの外の風景が挿入されるのだが、この部分が非常に美しく撮られている。いかにも市川流のフォトジェニックな風景で、見ようによっては重々しいテーマにそぐわない感じもするのだが、一方で死の縁に立たされた患者と対比する形で美しい情景が映し出されると「死」に対する「生」の輝きが意識させられる。花見で浮かれる人々の笑顔、四季折々に色づく自然風景。これらはみな「生」の象徴である。逆に、病院内の風景は益々暗く辛いものに見えくてくる。実に残酷な対比であるが、これが癌患者の鬱積であり、恐怖を表現しているのだろう。この対比から、外の「生」の風景に負けないくらい一日一日を大切に生きていかなければならない‥という彼らの思いも静かに感じられた。

 尚、病院のシーンは全て演出された芝居であるが、こちらも基本的にはドキュメンタリータッチで撮られている。定点観測のカメラで患者達の日常を追っていくという極めて動きの少ない芝居である。しかし、患者と山岡医師のコミュニケーションは中々見応えがあり、決して退屈するような事は無かった。彼らの診療は近代医療だけでは到底まかなえるものではなく、精神的なカウンセリングも必要になってくる。時と場合によっては、医師は技術者としてでなく、一人の人間として患者に向き合っていかなければならない。病気を患者に告知するかどうかという問題も含め、山岡医師は一人一人の患者に真摯に接していく。彼がどういう人間で、何を考えているのか。それが患者達とのやり取りから見えてくる。そこに人間ドラマとして面白さが感じられた。

 山岡医師を演じるのは個性派俳優、岸部一徳。ある種、難病物と言って良いこの手のドラマは、作りようによっては臭いお涙頂戴物になりかねないが、彼の淡々とした喋りが作為性を払拭している。感傷に流されることなく冷静なスタンスで診療に臨む姿勢に、医師としての説得力も湧いてきた。こういう医者には信頼を寄せる事が出来そうだ。

 本作で問題となるのは、ラストの処理のし方だろう。こういう締めくくり方をされると臭く感じてダメである。この映画のテーマはタイトルにもあるとおり、病院で死ぬことにどんな意味があるのか?ということである。劇中の池田のように畳の上で死にたいと考える人もいるだろう。確かに昔は畳の上で死ねれば本望という考えもあった。しかし、医療が発展した現代では病院で亡くなる人が多いと思う。周囲の家族の意向や経済的な事情、あるいは延命の議論にも関わってくる大変難しい問題である。それを“愛”という言葉だけで片付けらてしまっては、製作サイドの問題認識の甘さを疑ってしまう。いよいよ死に直面した場合、人はどう覚悟を決めるのか?この問題の重みをもっと正面から捉えるべきだったのではないだろうか。もっと言えば、ラストは描かなくても良かったような気もする。残された人生をどう生きるか?その覚悟を呈しただけでも本作のテーマは十分伝わるように思った。
[ 2010/12/19 01:34 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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