皮肉の効いた戦争映画。
「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007米)
ジャンル戦争・ジャンルコメディ
(あらすじ) 1980年、ソ連がアフガニスタンに侵攻する。米下院議員チャーリー・ウィルソンは、テレビで戦火に晒される住民の姿を見て胸を痛めた。そして、国防委員会に義援金の倍増を指示する。慈善事業団体を支援する富豪ジョアンはこの政策に注目し、パーティーの席でチャーリーに近づきアフガニスタン解放運動を働きかける。CIAでくすぶる切れ者ガストの協力を得たチャーリーは、アフガニスタンへの武器弾薬の調達に奔走する。
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(レビュー) 冷戦時代に活躍した政治家チャーリー・ウィルソンの活躍を描いた実録ドラマ。
この戦争は言わばアフガニスタンを舞台にした米ソ代理戦争だったわけであるが、過去のベトナム戦争然り。常に苦渋を強いられるのは戦火に巻き込まれる民間人である。そして、民族紛争は数多くあれど、その裏で糸を引くのはアメリカやソ連といった大国だったりするわけで、前線に立たされる兵士達は彼らのイデオロギーの対立に利用される“駒”に過ぎないのかもしれない。改めて、戦争とは何なのか?ということを考えさせられてしまう。
チャーリーはありとあらゆる人脈と金脈を使ってアフガニスタンへの軍事投入を推し進めていく。その結果、ソ連をアフガニスタンから追い出すことに成功し、ベルリンの壁が取り壊されて冷戦時代は終焉する。
本作ではチャーリーは冷戦を終わらせた影の立役者のように賛美されている。ただ、これを額面どおりに受け取っては、本作の真意を理解したと言うことは出来ないだろう。その後、アフガニスタンではタリバンが台頭し、アメリカは対テロ戦争に突入していく。言わば、アフガン戦争がタリバンという怪物を作ってしまったわけである。敢えて今この戦争を描いた意味はここにあろう。共産主義から世界を守れと大義名分を翳して勝利したアメリカは、痛いしっぺ返しを食らった。この歴史を考えれば、チャーリーの偉大なる功績は実に皮肉的なものに見えてくる。
監督は名匠M・ニコルズ。いかにもこの人らしいシニシズム溢れる問題作となっている。
ただ、全体的にコメディ要素が強いため、それほど“毒”が目立つわけではない。社会派的なテイストを極力抑えながら娯楽性を優先させた作りになっている。その結果、全体的にまろやかな味付けになっている。そのサジ加減にベテラン監督ならではの手練が認められる。娯楽かメッセージか?この二つを天秤にかけることは、常に作り手側について回るジレンマであろうが、今回はそのバランスが上手く取られているような気がした。
チャーリー・ウィルソンを演じるのはT・ハンクス。女と酒とドラッグを愛する軽薄な政治家という設定は、コメディアン出身である彼にはハマリ役だと思う。ただ、コメディもシリアスも難なく演じてしまう器用さがこの人の損な所でもある。今回は幾分コメディに傾倒しているが、作品の印象同様、インパクトには欠ける演技であった。
本作で白眉はガスト役を演じたP・S・ホフマンだろう。見終わってようやく判明したくらいで、彼が演じていたとは全く気がつかなかった。この役作りには脱帽である。また、チャーリーの取り巻き、通称“チャーリーズ・エンジェル”(笑)の筆頭A・アダムスの可愛らしさも印象に残った。