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レバノン

ユニークなアイディアが目を引く戦争映画。
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「レバノン」(2009イスラエル仏英)star4.gif
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ)
 1982年、イスラエル軍がレバノンに侵攻する。戦車に搭乗した4人の兵士が、爆撃後の市街地に向けて出発した。優柔不断な指揮官アシ、恐怖で引き金を引けない砲撃手シムリック、反抗的な弾倉係ヘルツル、マザコン操縦士イーガル。彼らの任務は残党兵を始末することだった。任務は簡単に終わるはずだったが、思わぬ事態で彼らは窮地に追い込まれてしまう。
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(レビュー)
 戦車に搭乗した4人の兵士が体験する恐怖を、緊張感溢れるタッチで描いた戦争映画。

 去年見た「戦場でワルツを」(2008イスラエル仏独米)と同じレバノン戦争を題材にしている。我々日本人にとっては余り馴染みのない戦争であるが、監督はどちらもイスラエル人でこの戦争に従軍した経験を持っているということである。おそらく彼等にとって、この戦争は忘れることのできないトラウマとして脳裏にこびり付いているのだろう。「戦場でワルツを」はアニメーションという技法を使うことで割とファンタジックに料理されていたが、本作はそれとは対照的に戦場の臨場感を重視した感じに仕上げられている。同じ戦争を体験した監督でも、ここまでテイストが異なると面白い。そして、両作品とも戦場の理不尽さ、恐怖といったものがひしひしと伝わって来るあたりは、監督の戦争体験がダイレクトに作品に反映されているからであろう。

 本作で特筆すべきは作品スタイルである。映画が始まってからラストに到るまで、カメラは戦車の中から一歩も外に出ることはない。戦車内部で起こる密室ドラマと、スコープ越しに見る風景だけで90分を描き切っているのだ。この息詰まるような閉塞感は只事ではない。連想したのは、「Uボート」(1981西独)のジメジメとした圧迫感である。正に観客自身が戦車に乗って戦争を疑似体験しているかのような、そんなユニークなスタイルになっている。

 主要キャラは戦車に搭乗する4人の兵士達である。これが何をやらせてもダメな連中で、序盤から砲撃手が墓穴を掘って失笑を買う。おまけに部隊の隊長は軽薄且つ独善的な男で全然信用できない。こんな調子なので任務などまともに遂行できるはずも無く、彼らはどんどん窮地に追い込まれていくことになる。

 本作は基本的にはシリアス劇であるが、こうした戦場の混乱を捉えた描写は見ようによってはブラック・コメディのようにも映る。特に、オチに関しては人を食っているとしか言いようが無い。冒頭のひまわりにしてもそうだが、「平和」の象徴をかくも堂々と画面に印象付けるということは、この作品自体が監督の「戦争」というものに対する痛烈なアイロニーになっているのであろう。ひまわり達のしどけなさにオフビートな味わいがある。

 プロダクション・デザインの仕事振りについては今回最も驚かされた点である。戦車の内装は途中からガラリと表情を変えていく。あるアクシデントによって、まるでエイリアンの巣のようなグロテスクな空間に変化していくのだ。粘液のような液体が壁一面を滴り落ち、床一面にコールタールのような液体が浸水する。機械というよりもそれはまるで生き物のようである。もしくは、彼等稚拙な兵士たちにとっての隠れ蓑、つまり幼子を孕む母胎のようでもあり、正直生理的にはかなりキツイものがあった。塚本晋也監督の「鉄男 TETSUO」(1989日)は人の情念が肥大する事で体が金属に蝕まれていった。それと同じように、この戦車も戦争の狂気によって禍々しいモンスターに豹変してしまったのかもしれない。この戦車の内装はドラマの舞台としてはこれ以上に無いくらい異様な雰囲気を醸し、リアリティーを追求したドキュメンタリータッチにこうした歪なアイディアを付加したセンス。そこにこの監督の才気を感じてしまう。

 一方、物語については正直、映像スタイルほどの斬新さは余り感じられなかった。戦災の悲劇や兵士同士の意思疎通といった紋切り的なエピソードを要所に入れ込んだ作りで、極めてシンプルである。そこだけにポイントを置いてしまうと物足りない作品である事は確かだ。特に、後半に登場するキーマンに関しては、やり方次第でもっと面白いドラマに出来たかもしれない。捕虜の扱いにしても同様のことは言える。このあたりをサスペンス効果に作用できれば、また鑑賞感も大分違ってきただろう。もっとも、本作はドラマ性を極力排除している事は予め分かりきっていることであり、そこを評価の対象にしても仕方がないという感じもするが‥。
 また、初監督と言うこともあるが、所々に演出的な不自然さを感じたのも残念だった。こちらは明らかに予算等の問題だと思う。
[ 2010/12/23 01:57 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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