毒気タップリのコメディで楽しめる。
「バーン・アフター・リーディング」(2008米)
ジャンルサスペンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) アル中でCIAをクビになったオズボーンは、やけになって暴露本の執筆に取り掛かる。妻のケイティは夫の友人で財務省連邦保安官ハリーと不倫しており、離婚の機会を虎視眈々と狙っていた。一方、近所のフィットネスジムに勤めるチャドはロッカーで1枚のCD-ROMを拾う。そこにはCIAの機密情報が入っていた。実は、それはケイティが離婚に利用しようとしてオズボーンのパソコンからコピーしたものだった。チャドの同僚で出会い系サイト中毒の独身中年女性リンダは、全身整形の費用欲しさにそれをネタにオズボーンから金をせしめようとする。
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(レビュー) CIAの機密情報が入ったCD-ROMを巡って起こる騒動をスラップスティックに描いたコーエン兄弟の作品。いかにも彼等らしい毒の入ったコメディに仕上がっている。
本作の見所は何と言っても豪華な出演陣である。J・クルーニー、J・マルコヴィッチ、B・ピット、T・スウィントン等、夫々に単独で看板を背負う事が出来るようなスターたちが情けないキャラを妙演している。
中でも、コーエン作品ではお馴染み、F・マクドーマンドの演技は一際目立った。彼女が演じるのはフィットネスジムに勤める孤独な独身中年女性リンダ。彼女は出会い系サイトで結婚相手を見つけようとしているが、年齢的にどうしても容姿の衰えカバーしたい。そこで全身整形しようするのだが、その費用を稼ぐためにオズボーン脅迫計画を思いつく。言わば、彼女の不純な動機を出発点として一連のドタバタ騒動劇が始まるのだ。天下のCIAを相手に何と大胆な‥と思ってしまうが、孤独な中年女性の暴走と言っても良いこの愚行にこそ、コーエン兄弟が描き続ける人間の悲哀を見る事が出来る。同監督作の「ファーゴ」(1996米)の狂言誘拐騒動に通じるような哀しさ、愚かさが感じられた。
また、B・ピット演じる筋肉バカなインストラクターも面白い役どころだった。彼については後半に意外な顛末が待ち受けているのだが、これは予測できなかった。本作で一番の〝美味しい”キャラだと思う。
また、映画の構成も中々凝っていて面白い。冒頭と結末が共に〝天”からの視点で描かれるのだが、これは見ようによっては神からの視点とも取れる。一連の騒動を見て神様も苦笑している‥。そんな神様目線で観客は見れるのではないだろうか。本作は決して感情移入出来るような作品とは言い難い。一歩引いた目線で楽しむペシミスティックな作品と言える。
笑いも爆笑を狙うものではなく、概ねシニカルさを伴うものが多い。事件がエスカレートしていくに連れて、血生臭い惨劇も出てくるし、ほとんどのキャラが悲劇的な顛末を迎える。事件は一応の決着を見るので、ある程度はスッキリするが、同時に何とも言えない後味の悪さも残る。こういった独特なテイストがコーエン作監督の持ち味だろう。
ちなみに、ハリーを付回す黒い車の正体にはまんまと一杯食わされた。もしかしたらこの騒動で一番の勝者はハリーの妻だったのかもしれない。実にしたたかな勝ち逃げ振りであった。