人間の欲心をシニカルに綴った娯楽作!
「黄金」(1948米)
ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) 1920年代のメキシコ。仕事を探しにやって来たアメリカ人ドブズは、一文無しになり途方にくれていた。偶然雇われ仕事にありついたが、その賃金を払ってもらえず再びどん底の生活に戻る。ドブズはその仕事で知り合ったカーティンと、今後の身の振り方について思案を巡らした。そんな矢先、ハワードという老人に出会う。彼は元金鉱掘りの職人で、その気があれば一攫千金を狙えると言う。ドブズ達はハワードの案内で早速金が眠る山へ向かうが‥。
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(レビュー) 金に目がくらんだ男達の非情な運命を、熱度の高いタッチで綴った巨匠J・ヒューストンの作品。
即物的な快楽を追求する人間の“性”を赤裸々に曝け出して見せた所に、本作の意義があろう。金を巡って精神状態がおかしくなっていく3人の姿は正に俗物の一言。人間の嫌な面が突きつけられた感じがして、好き嫌いは分かれようが、個人的には非常に見応えがあった。
むろん、このテーマをストレートに語ってしまえば、ひたすら陰鬱で教訓めいた押し付けがましいドラマになってしまう。J・ヒューストンはそれを避けるために、アクション、サスペンスといった娯楽要素を盛り込みながら、見る側が自然にこのメッセージを受け取れるよう策を働かせている。この辺りの作りが実に巧みだ。彼の持ち味である骨太なタッチもドラマへの求心力を高め、単なるお説教映画になっていない。
見所は何と言っても、金を掘り当てた3人の衝突と友情ドラマである。彼らは協力しながらせっせと金を掘っていくのだが、金を独り占めされまいか‥と夫々に疑心暗鬼に陥っていく。過酷な自然という極限状況も相まって、この辺りの3人の心理劇は実にスリリングだ。
ただし、アクションシーンは正直今ひとつだった。単調で間延びした感じを受ける。時代を考えればこれは已む無し‥といったところだろうか。むしろ、銃撃戦よりも、前半の酒場の殴りあいの方が迫力があったくらいで、この辺りは若い頃にボクシングにのめり込んでいたJ・ヒューストンのこと。その経験や思い入れが演出の“切れ”に繋がっているのだろう。今見ても全然遜色ない。
シナリオはバイヴレーション豊かで飽きさせない。無駄の無い純度の高い構成力に驚かされる。
また、ウィットに飛んだセリフ回しも面白い。例えば、ハワードの「水は金より高価」というセリフは、人間が生きるうえで最も大切なのは何なのか?ということを考えさせられる。そして、この言葉の意味は随所に効いてくる。このあたりの配慮の行き届いた作りは感心させられる。
伏線も見事な働きを見せている。例えば、序盤に登場するくじ売りの少年やペテン師、中盤に登場する第三の男といった人物の立ち回りがドラマ運びの伏線として上手く機能している。
キャストではドブズを演じたH・ボガートのワイルドな魅力が印象に残った。彼は金しか信用しない孤独な男である。そして、いざと言う時には仲間を平気で裏切る薄情な男である。人間の悪心を生々しく体現したところに見応えがあった。
ハワードを演じたウオルター・ヒューストンも、味のある演技を見せている。彼はJ・ヒューストンの実父である。ラストの彼の演技は特に印象深い。半ばあきれ顔で豪快に笑い飛ばすその所作に、全てを無に返すような痛快さ、人間の卑小さを皮肉ったニヒリズムが感じられる。この世に真の道徳など存在しないのではないか‥。そんなことをこのラストから感じられた。
音楽についてはやや大仰でシーンにそぐわない選曲があった。アクション演出同様、このあたりは時代性が関係しているかもしれない。もう少しメリハリをつけて欲しかった。