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大阪ハムレット

「ハムレット」を大阪下町人情劇風にしたらこうなりました‥といった感じの作品。カラッとしている所が◎
大阪ハムレット デラックス版 [DVD]大阪ハムレット デラックス版 [DVD]
(2009/07/24)
松坂慶子、岸部一徳 他

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「大阪ハムレット」(2008日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 大阪下町に住む久保家。父が急死したことで家族は母と息子3人だけになる。そこに突然、父の弟が転がり込んできた。彼は仕事で忙しい母の変わりに、家事をしながら子供達の面倒を見るようになる。そんな叔父に初めこそ戸惑いを見せる子供たちだったが、温かな人柄に触れていくうちに次第に父の死を忘れていく。一方で、思春期である息子達には夫々に悩みがあった。中学3年の長男政司は初恋に苦しむ。中2の次男行雄は、ひょんなことから「ハムレット」を読み自分の存在に違和感を抱き始める。小学生の三男宏基は病床の叔母の影響で、女の子になりたいと思うようになる。
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(レビュー)
 大阪に住む家族の悲喜こもごもを笑いと涙で綴った人情ドラマ。森下裕美の同名コミックを実写映画した作品である。コミックという事で多少のディフォルメ感が残るものの、日常に根ざした描写に一定のリアリズムも感じる。微笑ましいエピソードやビターなエピソード、色々と出てくるがどれも市井のものとして身近に受け止める事が出来た。

 タイトルからも分かるとおり、本作はシェイクスピアの「ハムレット」をモチーフにしている。さぞ悲劇色が濃くなるかと思いきや、その予想に反して鑑賞感は爽やかである。そもそも悲劇と喜劇は表裏一体である。見方を変えることでどちらにも転ぶものであり、正に本作はそのような目線で見れてしまう。

 例えば、長男政司と女子大生の初恋は、当の本人からしてみれば実に悲劇的なものである。しかし、女子大生が極度のファザコンであることを鑑みれば、一歩引いた目線で捉えることで政司の性の衝動は喜劇的な物にも見えてくる。

 次男行雄と叔父の関係は「ハムレット」になぞらえれば、かなり悲劇的なものが予想できる。叔父は父を殺害し母を我が物にした憎き敵、クローディアスと重なるキャラクターである。しかし、叔父のキャラが余りにも朴訥且つマイペースなので、本家「ハムレット」のような陰惨な結末にはならない。叔父のとぼけた人柄に引きずられて、行雄の根っからの素行不良が完全に封じ込められてしまうからだ。そこに何とも言えぬオフビートなユーモアが派生する。

 三男宏基の性同一性障害は本作で最も深刻な問題だろう。これに関してはクライマックスで一定の解決を見るのだが、彼の勇気と彼を受け入れる周囲の愛情によって見事に解決される。正に悲劇から喜劇への一発逆転劇といった感じである。
 ただし、このクライマックスは描き方が余りにもベタ過ぎて、残念ながら今ひとつ入り込めなかった。個人的にはもう少しさりげなく描いてくれた方が感動できたような気がする。

 むしろ、感動的という意味では、その直前の政司と行雄のやり取りの方がボルテージが上がった。行雄を捉えた移動ショッも高揚感と躍動感に満ちていて印象に残る。暗いトンネルに一筋の光を見つけたような開放感に青春映画然とした爽快さも味わえた。

 物語は基本的に3人の息子達の日常描写を交錯させながら展開されていくが、一方でサブプロットとして母と叔父のドラマが時折混入されている。子供目線で描かれるドラマのため二人の関係がどこまで緊密なのか明確にされていないが、ラストを見るとその回答が何となく想像できる。この母親、女性としては実に逞しいのだが、子供たちのことを思うとどうだろうか?母親としての責任というか、自覚が余り感じられない。

 明示はされていないが、もしかしたら3人とも父親が違う可能性だって考えられる。そうなるとこの家族の繋がりは益々薄いものとなり、仮にそうでなかったとしても母のこの放任主義は、悪く言えば母性の怠慢と言える。決して子供たちを嫌っているわけではないのだが、彼女の愛情の優先順位は子供よりも夫、あるいは夫になる別の男の方が高いと言えるかもしれない。これでは良い母親とは決して言えない。

 何だかんだと言って、こんな母親を中心にしてこの家族は一つにまとまっている。しかし、ドラマだから上手くいっているが、現実にはこう上手くいかないだろう。個々に勝手な事をしながらいざと言うときだけ家族の輪で団結する‥。これはつまり〝家族”というものに対する幻想のドラマなのだと思う。

 成瀬巳喜男監督の「稲妻」(1952日)は異父兄妹のドラマだったが、本質的にこれも本作と似た設定である。家族のあり方が成瀬監督らしい神妙なタッチで綴られている佳作だった。「稲妻」と比べると、こちらは随分と大らかに家族のあり方という物が捉えられている。両作を並べてみるとテイストの違いが見られて面白いかもしれない。それこそ正に悲劇と喜劇‥という風に見れるだろう。
[ 2011/02/08 00:41 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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