愛憎渦巻く暴力の世界をスピーディーに活写した快作!
「カジノ」(1995米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1970年代、賭博師サムはラスベガスに乗り込んで、カジノ界を牛耳る親分衆に近づいて徐々に実力をつけていった。そして、ついに1軒の店を任されるまでになる。その後、ジンジャーという女詐欺師に出会い彼女との間に一児をもうけ万事順調の生活を送っていく。ところが、そこにかつての相棒ニッキーが訪ねてきた事で彼の人性は狂ってしまう。ニッキーは取立て屋をしながらサムの店に入り浸るようになる。彼の毒づく言動は周囲にトラブルを巻き起こし、サムはそのたびに尻拭いをさせられた。一方、家庭不和からジンジャーは子供を連れて昔の恋人の元へ去って行ってしまう。こうしてサムは徐々に苦境に立たされていく。
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(レビュー) 様々な欲望が渦巻くラスベガスを舞台に、一人の賭博師の盛衰を過激なバイオレンスと流麗な展開で綴った人間ドラマ。
監督・脚本はM・スコセッシ、主演はR・デ・ニーロ。息のあった盟友が繰り出すスピード感溢れるドラマは、同じ監督・出演コンビで作られた「グッドフェローズ」(1990米)に共通するテイストを持っている。アクの強いサブキャスト、ドライヴ感溢れる長回し、モノローグによる場面進行、ほぼ全編に流れる当時のBGM等。スコセッシのあらゆる演出テクニックが詰め込まれたのが「グッドフェローズ」という傑作だったが、本作もそれに負けず劣らずの快作に仕上がっている。
ドラマも、血生臭い暴力の世界に身を落とした人間達の抗争を描く‥というもので、やはり「グッドフェローズ」を想起させる。ただ、単なる焼き直しというわけではなく、こちらの物語の舞台はカジノ街である。暗黒街を舞台にした「グッドフェローズ」とは似て非なるものであり、描く題材が異なるところに新味が感じられた。
映画は序盤から軽快なテンポで進んでいく。冒頭でデ・ニーロ演じるサムの乗った自動車が爆破され、果たして誰の犯行なのか?そのミステリを前提に以後のドラマが展開されていく。中々上手い“引き”だと思った。
その後は、サムとニッキーのナレーションで夫々の波乱に満ちた人生が綴られていく。無駄のない簡潔な語り口が3時間という長さを全く感じさせない。
更に、中盤からサムとジンジャーの夫婦間の愛憎ドラマが加わることで、物語はヒートアップしていく。どちらも金の亡者であり、この醜悪な夫婦喧嘩は見ていて決して気持ちの良い物ではないが、人間のエゴを赤裸々に投射したところに見応えを感じた。特に、ジンジャーを演じたS・ストーンがラリってわめき散らしながらズタボロになっていく姿は筆舌に尽くし難いほど醜く、ここまで汚れ役に徹した彼女の女優魂には素直に拍手を送りたい。
他のキャストでは、ニッキー役を演じたJ・ペシの切れっぷりも印象に残った。やはり、これも「グッドフェローズ」で演じた役と似ていて、現実にいたら決して近づきたくないタイプの男である。ペシはこれを実に憎々しく好演している。ただし、「グッドフェローズ」で見せた“静”と“動”の演技のギャップが醸すピリピリとした緊張感は皆無で、見ていて心臓に悪いというほどの恐怖は感じられなかった。切れるペシの怖さは、やはり「グッドフェローズ」のトミーに叶わない。
尚、スコセッシとデ・ニーロのタッグは本作を最後に解消された感がある。以後二人の競作は無い。ご存知のように、今やスコセッシはL・ディカプリオという新たなパートナーを得て新作を作っている。方や、デ・ニーロもわが道を行きながら活動の場を広げている。特に、90年代末からコメディ作品へ意欲的に出演しており、この傾向はスコセッシの呪縛から解かれた彼のキャリアの中では最大の特徴と言えよう。昔では考えられなかったことだが、今ではごく自然に彼のコメディ演技が見れるようになった。