捻った題材で面白い。
「依頼人」(1994米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 少年マークは弟と森に遊びに行った時に、自殺しようとしている男を発見する。寸での所で止めようとしたが、男は拳銃で自らの頭を打ち抜いた。弟はその光景を見たショックで気が狂ってしまう。その後、自殺した男の素性が判明する。彼は上院議員殺しで起訴されたマフィア、マルダーノの弁護士だった。マークは連邦検察官ロイから、自殺する前にマルダーノの有罪に繋がる重要な証拠を聞いてないかと訊ねられる。しかし、彼はマフィアの仕返しを恐れて口をつぐんだ。そして、全財産の1ドルをはたいて、やり手女性弁護士レジーを雇う。
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(レビュー) 上院議員殺害事件に巻き込まれてしまう11歳の少年の危機を、女性弁護士との交流を交えて描いたサスペンス作品。
証拠を握るマークは、検察とマフィアの両方から追われるようになる。それを女性弁護士レジーが守りながら戦っていく‥というのがこのドラマの本筋だ。中々捻りの効いた設定で面白い。
ただ、本作は事件そのものに関する謎解きや、その裏側を暴くサスペンスを重視したドラマとはなっていない。事件そのものは、マークが証拠を提示すればすぐに解決する話である。彼はマフィアの報復を恐れてそれが出来ないが、アメリカには証人保護プログラムという制度がある。凶悪事件の重要な証拠を提供してくれた者に対して、政府は本人の身の安全を確保するために全く新しい生活を保証してくれるのだ。マークの危機はこれによって解決する。要は法的な手続きを済ませばいいだけのことであり、何故これほどドラマをかき回す必要があったのか‥。そこがどうしても解せなかった。
原作はJ・グリシャムの小説である。言わずと知れたサスペンスの大家である。これまでにも何本も映画化されているが、それらと比べると事件そのものにあまり魅力は感じられなかった。しかし、今回はサスペンスに関連する形で人間ドラマも語られており、これまでにない面白さが認められる。
その肝要を成すのがマークとレジーの疑似母子関係である。
マークは弟と母親と暮らすホワイト・トラッシュで、父の虐待の過去で人間不信に陥っている。心は荒み、周囲の大人に対して懐疑的で反抗的な態度を取っている。年の割りにしっかりしている所が彼のキャラクター・チャームだ。
一方、レジーも過去に傷を抱える孤独な中年女性である。彼女はアルコール依存症で愛する子供を失った。再起をかけて弁護士事務所を開いたが、そこに現れたのは我が子と同じ年頃の少年マーク。たった1ドルで弁護士を務めて欲しいと言われ最初は鼻で笑って相手にしないが、亡き息子と重ねる事で何となく見て見ぬ振りが出来なくなっていく。
マークとレジーは共に愛する家族を失った者同士である。愛の喪失が二人を引き付け、依頼人と弁護人という関係を超え、擬似親子的な関係に発展していく。この交流が本作の最大の見所になっている。
監督はJ・シューマカー。割とアッサリとした演出をする監督であるが、今回は場面によってはジックリと見せようと努めている。とはいえ、ほとんどが軽い演出に終始し、肝心の疑似母子関係にも踏み込みが足りない。題材が結構面白かっただけに、やりようによってはもっと見応えのある作品になっていただろう。これはもはや監督の作家性と言うほかなく、そこは甘んじて受けるしかない。