6人の俳優がディランを演じた異色の作品。
「アイム・ノット・ゼア」(2007米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ) ある場所で一人の詩人が男達から取調べを受けていた。1920年代、ウディ・ガスリーに憧れる黒人少年はギター片手に転々としていた。ベトナム戦争が激化する60年代、人気フォークシンガー、ジャックはプロテストソングを歌うことをやめて世間から姿を消す。同じ頃、新人俳優ロビーはスター街道を駆け上がっていた。彼は妻子を振り切って競演相手の女優と不倫する。80年代、スター歌手ジュードはフォークソングを捨ててロックへ転向し世間から非難を浴びた。そして現代、中年ビリーは山奥で隠居生活を送っていた。
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(レビュー) 6人の俳優がボブ・ディランを演じる伝記映画。
監督・脚本は
「ベルベット・ゴールドマイン」(1998英)を撮った異才T・ヘインズ。彼が撮るだけあってストレートな伝記映画にはなっていない。何せ6人のボブ・ディランは夫々の時代のディランを表す“別人格”として登場してくるからだ。彼の伝記映画として見ようとするとかなり不合理な内容で、素直に入り込みづらい映画になっている。
ただ、この実験的で大胆な創意はユニークな試みに思えた。ボブ・ディランについて語る映画なら他のドキュメンタリー作品を見ればいいわけで、おそらくはそれとの差別化をはかる上でこのような作りにしたのであろう。ボブ・ディランを多面的な別人として描いたのは、T・ヘインズなりに彼を神格化した愛情表現なのだと解釈した。
だが、そうは言っても、ボブ・ディランのことをある程度知っていないと分かり辛い内容だと思う。夫々のキャラに投影された“ボブ・ディラン”にはバックストーリーが存在している。しかし、それは劇中では語られていない。予め彼の事を知っていれば、このキャラはディランのどの部分を表しているのか分かるだろうが、そうじゃないと見ていてワケが分からなくなってしまうだろう。
特に、新人俳優ロビーのエピソードは正直俺も何を描きたいのかよく分からなかった。他のエピソードは音楽というモティーフで繋がっているので、かろうじて彼の半生に重ね合わせて見る事でが出来るが、ロビーの不倫ドラマはディランのどの時代のどの部分を描いているのだろうか?
確かに彼は音楽以外に俳優業をしていた時期もあった。S・ペキンパー監督の「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」(1973米)の異形のガンマンは特に印象に残っているが、彼の俳優としての活動はそれほど多くはない。おそらくこの間のエピソードだと思うのだが‥。
尚、「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」出演時のエピソードは、本作では中年ビリーのドラマに投影されていると想像できる。というのも、「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」でビリーを演じたK・クリストファーソンが本作ではナレーションを務めているからだ。このことからも、中年ビリーが当時のディランの分身であることが想像できる。
映像はヘインズ監督らしく中々凝ったものが至る所に見られる。中でも、一番力が入っていると思われたのは、モノクロで描かれるジュードのエピソードだった。ジュードを演じるのはオスカー女優C・ブランシェット。女優がディランを演じる?という意表をついたキャスティングもさることながら、モノクロのシャープな映像が独特のトーンを作り出していて面白い。特に、ドラッグ漬けの彼の頭の中を再現するかのような非現実的なトーンで支配されるパーティー・シーンが印象に残った。