C・ファースの演技に拍手!
「英国王のスピーチ」(2010英オーストリア)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)英国王の次男ジョージ6世は吃音症で、長い間公の場で演説するのを避けてきた。このままではいけないと思った妻エリザベスは、スピーチの矯正で有名なライオネルの診療所を訪ねる。早速、妻に連れられて指導を受けるが、ライオネルの治療法は型破りなものでジョージは不安になった。一方で父の老体にも限界が近づいてきていた。次期王位に長男エドワードが就くことになるが、彼にはある問題があり‥。
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(レビュー) イギリス国王ジョージ6世が吃音症を克服するまでのドラマを、ユーモアを散りばめながら描いた感動の実話。
歴史的な事実としてこういうことがあったというのを、本作を見て初めて知ることが出来た。公人として人前で演説出来ないというのは致命的な問題であろう。ましてや国の顔でもある国王という立場である。これは避けて通れぬ問題である。
近年、英国王室を題材に描いた「クィーン」(2006英仏伊)という作品があった。国民の支持を背負う王室の苦悩に迫ったドラマだったが、今回のドラマにも根底にはそれと同じエッセンスが流れている。傍から見れば優雅に見えるロイヤル・ファミリーだが、裏側では色々な苦労がある。それが本作を見るとよく分かる。
ただ、この物語は決して浮世離れしたドラマというわけではない。そもそもジョージ6世がなぜ吃音症になったのか?その理由が後半で明らかにされるのだが、これは王室特有の問題ではなくジョージ個人のドラマである。そこに我々一般人が見ても共感できるテーマがあり、作品の普遍性も生まれてくる。
随所にユーモアを配した作りも作品を取っつき易くしている。その肝要はキャラクター同士が織りなす会話、やり取りにあろう。
ジョージ6世の吃音を矯正するために登場してくるのは、下町で診療所を構えるライオネルという男である。彼はオーストラリア出身の開業医で俳優志望者である。この設定からしてかなりクセのある人物である。現にジョージ6世は初対面の時に、彼の言動に不快をおぼえ憤慨する。ライオネルが、ジョージ6世を王室の人間としてではなく、一患者として接したからである。元来、英国人でないライオネルにとっては、相手がだれであろうとただの患者なのである。こうして二人の関係は対立した状態から始まる。
その後、ライオネルの治療が着実に効果を表わし始めると、卑しい移民のペテン師め‥というジョージの先入観も次第に解かれていくようになる。二人は熱い信頼関係で結ばれ師弟のようになっていくのだ。本作はここに至る過程を実に端正に描いている。見ていてしみじみとさせられる場面がいくつかあった。
この関係変遷に説得力をもたらした俳優たちの演技も素晴らしい。ジョージ6世を演じたコリン・ファースは吃音症というハンデを自然に演じて見せている。本作でアカデミー賞主演男優賞を取っているが、それも納得という演技だった。
ライオネル役のJ・ラッシュは相変わらず大仰な演技が鼻につくが、今回はクセのある人物だけに、このオーバーアクトがそのクセを上手く中和しているように思った。妻や子供たちとのユーモラスなやり取りも、ライオネルという男を愛着のあるキャラに仕立てている。
今作で残念に思ったのは結末の処理の仕方である。確かにカタルシスを求めるなら、こうするほかないのは分かる。しかし、この状況において全国民揃ってハッピーエンドといくはずがなかろう。戦争という悲劇を鵜呑みにして、ジョージ6世の葛藤克服のみを前面に出す事で強引にカタルシスへ持っていってしまっているところに疑問を感じた。
むしろ、個人的にはその前の妻とのやり取りのほうに感動した。ジョージの治療を影から支えた妻の役割は大きい。プレッシャーに押しつぶされそうになった彼を励ます彼女の言葉には、優しさとユーモアが感じられた。特にプロポーズを決めた理由が良い。これにはホロリとさせられた。こういう場面でこういう言葉をさりげなく言えるとは、良妻の極みではないだろうか。