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初恋・地獄篇

昭和テイストを感じさせるラジカルで魅惑的な作品。
初恋・地獄篇 [DVD]初恋・地獄篇 [DVD]
(2005/10/21)
高橋章夫、石井くに子 他

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「初恋・地獄篇」(1968日)星3
ジャンル青春ドラマ・ジャンルロマンス
(あらすじ)
 孤児のシュンは、彫金師の家に里子に出された。義父の仕事を手伝いながら青年へと成長した彼は、ある日ヌードモデルをしている奔放な娘ナナミに出会いホテルに誘われる。ところが、彼は何もする事が出来なかった。そんな彼にナナミは安らぎを覚える。二人は再会を約束して別れた。シュンの私生活は、養子という立場からひどく窮屈なものだった。特に、義父との関係はぎこちないものとなっており、その鬱屈した感情は近所に住む幼女との交流によってのみ癒された。しかし、これが変質者と誤解されて彼は精神病院に入院させられる。この時、彼の脳裏にナナミとの約束が思い浮かぶ。彼はナナミを求めて夜の町へと出る。
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(レビュー)
 孤独な純情少年と奔放な少女の初恋をシリアスに綴った青春ロマンス作品。

 大筋はオーソドックスな青春映画と称する事が可能だが、シュンが辿った過去、ナナミが置かれた状況は悲劇的なもので、爽やかに見れる青春映画とは言い難い。終盤の文化祭のシーンで8ミリ映画が登場するが、そこに映し出されたマスターべションの成れの果てが全てを物語っている。この青臭い恋愛価値観こそ、この頃の年相応の純愛なのだろう。稚拙で儚げなで残酷で‥。今見るとアナクロすぎてどうも‥という感じもするが、初恋をここまでネガティブに描ききった所に作り手側の気概を感じた。

 そもそも、シュンのバックボーンには性的虐待、近親相姦、小児性愛のトラウマが存在する。これだけでも、本作がかなりダウナーな青春映画であること分かる。加えてヒロイン、ナナミも徹底して悲劇的に追い詰められていく幸薄い少女だ。不倫、売春、秘密クラブで行われるSM、同性愛といった異常性愛が彼女の日常生活にまとわりつく。
 言わば、シュンもナナミも周囲の大人達の欲望の捌け口に利用される不幸な子供たちなのである。彼らが辿る運命に何が待ち受けているのか‥。それは「地獄篇」というタイトルから、ある程度推察できるが、想像以上に苦々しくヘビーなものだった。

 尚、本作はATG作品らしく、各所にアーティスティックな感性が見られる。脚本に寺山修司が参加し、これが作品の雰囲気を独特なものにしている。母性求愛や大人社会への反発といったものは、明らかに寺山ならではのガジェットだろう。

 一方で、特異な演出も見逃せない。監督は羽仁進。彼の作品でソフト化されているのは本作を含めごく僅かである。この監督が切り取る映像は毒々しく刺激的で、例えばシュンが催眠療法を受けるシーンなどは印象的である。もやの中に過去のトラウマを投影したダークで倒錯的な映像世界は魅惑的である。また、性愛表現の仕方においても、開き直りとも取れるような過激な描写があり、監督のつきつめ方に妥協は感じられない。

 音の演出も変わっている。当時の流行歌やクラシックをBGMに使用したり、ドラマと無関係に落語や念仏が流れたり、実に脈絡なく奔放だ。効果音も特異的で、時計の秒針音を延々と映像に被せたり、不気味に切迫感を煽るような“音”の設計が横溢する。

 但し、中には理解不可能な演出もある。例えば、街路で突然全裸になる男は一体何だったのだろうか?警察が駆けつけて通行人が驚いているくらいなので、おそらくゲリラ撮影だと思うのだが、本編に何の関係があるのか全く分からなかった。
 こうした理解不能な描写があるので、決して万人向けの作品でとは言い難い。しかし、幻惑的で過激で独特な魔力を持っており、そこがこの作品の魅力となっていることは確かである。
[ 2011/03/11 04:17 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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