腹黒い連中が揃っていて文句なしの娯楽作。
「金環蝕」(1975日)
ジャンル社会派・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 昭和39年、民政党大会総裁選で寺田が新総裁に選ばれる。星野官房長官は秘書を通じて、金融界の実力者と言われている石原に2億の融資を申し入れた。しかし、石原は星野の影にきな臭いものを感じ取り断った。その頃、電力開発株式会社の財部総裁は九州の福竜川ダム建設に躍起になっていた。自分の任期中にぜがひでも着工するつもりだったが、入札の段階で障害が生じる。財部は青山組にやらせたいと考えていたが、寺田内閣は竹田建設にと考えていたのだ。やがて、財部は任期途中でクビになり、入札は竹田建設に持っていかれた。財部は子飼いの新聞記者古垣に、ことの全てを暴露する。一方、石原は一連の入札工作に星野が深く関与していることを突き止める。
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(レビュー) 政財界の腐敗を赤裸々に描いた社会派作品。尚、本作は福井県の九頭竜ダム入札事件を元にしている。現実にこうした便宜をはかる輩はどこにでもいるものである。確かに事実を元にしているだけあってリアリティが感じられた。ただ、よくある話と言ってしまえばその通りで、映画の題材としての新味はそれほど感じられない。個人的には別のところに面白さを見出せた。それは魅力的な登場人物達である。事件そのものよりも、俺はそちらの方に惹き付けられた。
この映画には二人のヒーローが登場してくる。一人は金融王石原である。彼は戦後間もない頃にフィクサーとして活躍した人物で、石原メモなるものを手にして、金融界でのし上がってきた男である。やっていることは相手の弱みに漬け込んで金儲けをするヤクザと何ら変わらないのであるが、演じる宇野重吉の怪演がキャラクターに奥行きをもたらしている。実にしたたかで手の内を中々見せない策略家といった雰囲気を醸し、政治という魔窟に鋭いメスを入れていく行動力には、ある種の“頼もしさ”が感じられた。そもそも外見からして、いかにも“曲者”という“味”があるし、どこかとぼけた愛嬌もあって良い。彼は内閣の要である堅牢無比な星野官房長官の懐に飛び込んで入札事件の実情を暴いていく。
もう一人はアングラ新聞社の編集長古垣である。彼は電力開発会社の財部総裁と太いパイプで繋がっており、今回の入札事件の裏を暴こうとする。その熱い記者魂は全くもって見事である。また、その一方で彼には母親の違う愚弟がいて、彼との愛憎ドラマも語られる。事件の捜査と愚弟との軋轢。この二つを関連付けながら、彼の人生もドラマチックに描かれている。
他にも個性的なキャラクターが多数登場してきて面白い。
例えば、三国連太郎演じる“政界の爆弾男”こと神谷代議士の活躍などは、かなり大仰な立ち振る舞いに思わず失笑してしまったが、意外にこういう政治家は現実にいそうである。正にハマコーを連想させられた。
西村晃演じる竹田建設専務の悪辣ぶりも実に良い。典型的な太鼓持ちで、酒の席では相手を持ち上げようと下卑てみせたり、プライドというものを一切持たない見下げ果てた男である。こういう人間は体制が変われば、またその体制にくっついてしぶとく生き延びそうである。
監督はこの手の大作映画はお任せと言った感がある山本薩夫。社会派的なメッセージをきっちりと描きこみながら、娯楽性も忘れないところがこの監督らしい。但し、ベッドシーンの演出については不得手と感じた。硬派な世界を描くことの多い氏にとって、こちらの芝居は専門外という感じがする。どうしてもベタ過ぎてしまう。
尚、製作に徳間書店初代社長・徳間康快の名前がクレジットされている。「風の谷のナウシカ」で宮崎駿を世に送り出した、言わずと知れた名プロデューサーであるが、本作が彼にとって初めての映画の仕事となる。以後、ジブリ作品等でバックアップの舵取りをして行くが、元を辿れば彼の映画との出会いはこんな社会派作品にあったのか‥ということが分かって興味深い。