汚物と臭い飯にまみれた軍隊物の傑作!
「真空地帯」(1952日)
ジャンル戦争
(あらすじ) 昭和19年、大阪の内務班に、出所したばかりの木谷一等兵が配属される。彼はある事件によって服役していたのだが、このたび初年兵に降格されて軍に復帰したのだ。木谷は元々は四年兵であることから初年兵に交じっても周囲から浮き、上官もどこかよそよそしく彼に接した。そんな中、三年兵の曽田だけは木谷を理解し親交を深めた。ある日、木谷は恋人花枝といつか暮らしたいと曽田に告白する。曽田はどうにかして力になりたいと思うのだが‥。
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(レビュー) 軍の理不尽な実態を告発した社会派作品。
軍隊における暴行を描いた作品は、これまでにも何度か見てきたが、改めてこの前時代的で非論理的な不文律には憤りを覚えた。
内務班に配属された木谷は、初年兵に対する教育という名の数々の暴行を目撃していく。とりわけ曽田のような大学出の初年兵に対しては、インテリ層に対するコンプレックスなのか、古参兵たちの風当たりは強い。それは、刑務所に服役していた木谷をして、刑務所よりもたちが悪いと言わせしめるほどである。また、こういう場所には必ずグズな落ちこぼれという者がいるもので、安斎に対する虐めは酷かった‥。
後半、ついに見るに見かねた木谷が意見する。これは実に痛快だった。それまで溜まっていた鬱積を一気に爆発させたところにカタルシスが感じられた。本作のテーマはこのシーンに集約されていると言っていいだろう。
一方で、本作は軍上層部に対する痛烈な批判も呈している。
木谷はある容疑で懲罰を受けたのだが、それが彼の回想で振り返られていく。実は、この事件には、あるからくりがあった。これは軍特有の悲劇ではないと思う。会社で言えば派閥争いに巻き込まれたようなものであり、組織の歯車として働く個人の無力さを改めて思い知らされるエピソードだった。社会に蔓延する絶えることのない悪癖と言えよう。あらためて〝個”を殺してしまう組織の恐怖に戦慄と憤りを覚えてしまう。
本作は徹頭徹尾、体勢に抗うアウトロー木谷のドラマであるが、その料理の仕方についても上手さを感じた。
木谷の反動エネルギーはゆっくりと静かにスパイラルアップしていくが、その意に説得性をもたらすべく曽田という男を登場させたところが上手い。ややもすれば、一方的に軍の批判をして終わり‥となるところを、曽田という冷静沈着な相棒をドラマの視座として介在させたことで、木谷の反動に一定の“理”を持たせている。この構成の巧みさには唸らされる。
監督は山本薩夫。まだ“赤いセシル・B・デミル”と称される以前の作品であるが、彼らしい反骨思想はすでに本作からも伺える。後年の大作趣向な絢爛さと比較すれば地味な印象は否めないが、演出は豪快で画面にグイグイと引き込まれた。
しかし、反面繊細さに欠く部分もあって、エネルギーが先走りし過ぎた感がしなくもない。例えば、内務班には多様な面々がいるが、前半はその整理にもたつく印象を受けた。もう少し整然とした語り口が必要だったかもしれない。また、これは原版が古いせいもあるが、編集が雑然としていたり、音声が聞き取りにくい箇所が幾つかあった。