山崎豊子&山本薩夫コンビが放つ社会派人間ドラマの大作。
「華麗なる一族」(日)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル社会派
(あらすじ) 阪神銀行の頭取万俵大作は、関西財閥のトップを牛耳っている。長男鉄平は万俵グループの一翼をになう阪神特殊鋼の専務取締役、次男銀平は阪神銀行の貸付課課長を務めている。大作には妻寧子の他に、相子という家庭教師兼執事を務める愛人がいた。実は、これまで万俵家は政財界とコネを作るために、政略結婚を繰り返してきたのだが、その全てを相子が裏で仕切っていたのである。このたび銀平を大阪重工社長の娘と結婚させる運びとなった。そして、次女ニ子も総理大臣の甥と結婚させようとしていた。一方、鉄平は会社を大きく発展させるために高炉建設の計画を立ち上げる。その資金集めに奔走するが、大作が経営する阪神銀行から融資をカットされてしまう。金融再編成の折、大作は阪神銀行の預金高を全国トップテンにし、生き残りをかけてゆくゆくは他行との合併をも睨んでいたのである。鉄平は自分に対する大作の冷淡な態度に前々から不信感を持っており、この融資減額をきっかけに父子の縁を切る。
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(レビュー) 「華麗なる」とは何とも皮肉的なタイトルである。急成長を遂げる関西財閥、万俵家は表向きは華麗に見えるが、中味は愛憎渦巻く魔窟のごとき名ばかりの華族である。我々一般人からすれば彼らのいざこざなど、まるで別世界の出来事のように見えてしまう。だからこそんなのだが、このドラマをどこか他人事のように、ほくそ笑みながら見ることが出来る。この手の貴族や華族のドラマが何故人を惹きつけるのかというと、有名人のゴシップネタを興味本位で読むような感覚で見れるからだろう。本作はそんな人間の助平心をくすぐるように、華族の強欲さ、醜悪さを赤裸々に描いている。
原作は山崎豊子、監督は山本薩夫、脚本は山田信夫。以前紹介した
「不毛地帯」(1976日)と同じ布陣である。原作は未読であるが、社会と個人の関係に深く切り込んだドラマチックな話運びに「不毛地帯」と同様の鑑賞感が感じられた。山本監督らしいエンタメに特化した演出も豪快に炸裂しており、山田信夫の流麗なシナリオも実に無駄が無く上滑りすることもない。3時間半を超える時間も一気に見れてしまった。
尚、自分は2007年にテレビシリーズとして製作されたものは見ていたのでストーリーは概ね知った上での鑑賞である。本来ならテレビシリーズで丁度良いくらいのボリュームの話であるが、それをよくぞここまで削ぎ落とすことに成功したと感心させられた。その最たる貢献はナレーションによる説明が上手く機能していることにある。本来、ナレーションで全てを片付けてしまうのはストーリーを省略する上で反則技なのだが、何せ複雑な設定なのでこれが無いと長尺になってしまう。見る側に明快に解説してくれるという意味でも、このナレーションの挿入は効果的だった。
さて、本作の面白さは、何と言っても政財界を巻き込んだ紛争劇にあろう。万俵大作はあらゆる手段を使って阪神銀行の拡大化を図ろうと豪腕を振るう。政財界との政略結婚を繰り返し、時には法律で違反されている偽装出資までしながら自社を大きくしていく。良し悪しという問題はあるにせよ、この徹底したビジネスライクな思考には究極の企業家精神が感じられた。特に、大蔵大臣に合併話を相談しに行くシーンなど、表向きは静かな会合であるが、まるで食うか食われるかの死闘でゾクゾクするような興奮が感じられた。庭園に置かれた立派な景石を例えて政治献金の話とは‥。実に老獪なかけひきである。遠まわしに言う辺りがリアルだ。
そして、この大作と真っ向から対立するのが長男鉄平である。彼は純情で人情に厚い好青年である。高炉建設という夢を掲げ、自分なりの企業家精神を追い求めていくのだが、大作ほどシビアになれず詰めの甘さを露呈してしまう。彼は大作に比べたらロマンチストすぎるのだ。
本作はこの父子の戦いを軸にしながら政財界を巻き込んだドラマチックな紛争劇が繰り広げられていく。そして、その一方で彼らには因縁の過去があり、そこには人間ドラマとして面白みも感じられた。父子の葛藤自体、特段目新しさは無いものの、突き詰め方に妥協がない。その顛末には実にやりきれない思いにさせられた。
更に、メインである父子の戦いが繰り広げられる一方で、今作は大作を巡って対立する二人の女の戦いも描かれている。正妻・寧子と愛人・相子は、交代で大作の夜の相手を務める双璧関係にあり、彼女たちの静かな軋轢も見逃せない。本来なら寧子が立場的には上位なのだが、それは形だけのものである。実際には愛人である相子の方が家庭内での地位は上で、大作の秘書として常に傍に寄り添っているのだ。これを京マチ子が実にしたたかに好演している。この好対照な二人の女の戦いは、父子の戦いの傍らで大いにドラマを盛り上げている。
キャスト陣も豪華である。全体的に皆、演技が大仰であるが、この手のジェットコースター・ドラマにはむしろその方が合っているような気がした。特に、大作を演じた佐分利信の尊大さが良い。観客は当然鉄平の正義感に惹かれ彼に感情移入するわけで、大作は敵役として憎々しくあればあるほどドラマも盛り上がる。今となっては中々見られなくなった独善的な父親像は、いかにもこの時代の父権を体現していると思った。
尚、官僚役人、美馬を演じた田宮二郎は「白い巨塔」の撮影後に猟銃自殺をしている。当時は、その自殺の方法が本作の鉄平の自殺を真似たとも言われた。