喜劇をこよなく愛する三谷幸喜の志が良く出た逸品。
「笑の大学」(2004日)
ジャンルコメディ
(あらすじ) 日本が戦争に突入していった昭和15年。劇団“笑の大学”の喜劇作家、椿は警視庁の検閲室に新作の台本を持って出向いた。国は演劇や出版物といった娯楽に対して厳しい検閲をしていたのである。今まで一度も笑った事がないという検閲官、向坂のチェックが入り、あえなく椿の台本は書き直しを命じられた。翌日、言われたとおりに書き直したが、再び書き直しが命じられる。こうして二人は対立を繰り返していく。
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(レビュー) 喜劇作家と生真面目な検閲官が、新作台本を巡って丁々発止のやり取りをしていくコメディ作品。三谷幸喜の舞台劇の映画化で、本人が脚本を担当している。
椿を演じるのは稲垣吾郎。喜劇を純粋に愛する男を飄々と演じている。向坂を演じるのは役所広司。こちらは徹底して笑わない男を貫き通している。役所広司は、笑いたい‥けれども笑えない‥という微妙なバランスの上でこの役を体現しており、毎度のことながらその演技力については感心させられる。流石である。
物語はこの対照的な二人の愛憎ドラマとなっている。台本の改稿を巡っていつの間にか奇妙な友情で結ばれていく‥という所が面白い。
また、改稿に改稿を重ねる事で椿の台本の“笑い”が熟成されていくというのも皮肉的で面白い。検閲官である向阪は、提出された台本から下らない“笑い”を取り除いて、国威発揚的なものに書き改めさせようと無理難題の注文をふっかける。ところが、椿はその要求にこたえながら更に面白いものを書き上げてくる。向坂の指導によって、むしろどんどん笑える台本になっていくという所が面白い。そして、向坂は知らず知らずのうちに“笑い”の楽しさ、素晴らしさの虜になっていくのだ。これは椿の熱意がそうさせたとも言えるわけで、そういう意味では芸術讃歌的なメッセージも感じられる。
戦時下における言論の自由というテーマは、作家業を生業とする三谷にとっては他人事ならざる思いが込められているのだろう。演劇、映画、音楽といった芸術・娯楽の素晴らしさを訴えるテーマは、語りつくされているが、それだけにいつの世にも通じる普遍的な“力”を持ったテーマと言える。三谷の場合は喜劇作家である。やはりテーマの打ち出し方もコメディとして料理されており、深刻に訴える作品と違い、肩の力を抜いて見る事が出来るところに彼の持ち味がよく出ている。
また、椿が向坂の無理難題な注文に応えながら台本を練り上げていく工程には、作家としての苦悩もよく見えてきた。ああしたら良くなる、こうしたら良くなる‥といった“生み”の苦しみはまるで創作の舞台裏を見ているようで面白かった。
尚、最も笑えたのは、向坂が検閲室を駆けずり回るシーンだった。喜劇と悲劇は表裏一体とよく言うが、これは向坂にとっての悲劇であり、傍から見る観客にとっては喜劇である。あれだけ険しい表情をしていた彼が、椿の指示にしたがって汗をかきながらあっちへこっちへ走り回る‥このギャップ、立場の逆転が実に可笑しい。
ただし、向坂がかつらをつけてリハーサルするのは、いくらなんでもやり過ぎ、はっちゃけ過ぎだろう。向坂は表向きはどこまでも厳格を貫き通す男であって欲しい。椿と多少は心を許せる仲になったとしても、ここまでやってしまうと何だか過度な馴れ合いのように映ってしまう。
本作はエンドクレジットも凝っている。多数の豪華俳優陣を起用したアイディアは意外性に富んでいて面白い試みに思えた。