ブロンソンの魅力が全開!
「雨の訪問者」(1970仏)
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ) ある雨の日、夫の帰りを待ちわびる人妻メリーは、突然現れた不審者にレイプされる。逆上した彼女は男をショットガンで撃ち殺し死体を海に捨てた。翌日、彼女の前に全てを見たと言うアメリカ人ドブスが現れる。彼の狙いは殺された男が持っていた赤いバッグだった。メリーは彼に付きまとわれるようになり‥。
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(レビュー) ミステリアスなアメリカ人、ドブスを演じたC・ブロンソンの存在がこの映画の魅力の大半を担っていると言っていいだろう。
彼はメリーに近づき、殺された男が持っていた赤いバッグを渡せと脅迫する。ブロンソンのニヒルでワイルドな面構えは中々のもので、彼が登場して以降、映画は俄然面白くなってくる。メリーは、彼の目的は何なのか?赤いバッグには何が入っていたのか?という疑問を抱きながら、この危険な男の虜になっていく。正直、映画の出だしは凡庸なのだが、ブロンソンが登場して以降、映画はグンと引き締まってくる。
一方で、映画はメリーのトラウマと葛藤にも迫っていくようになる。彼女は幼い頃に体験した"ある悲劇”から未だに立ち直れないでいる。そして、家庭では夫から馬鹿にされ、母親から虐げられ、完全に孤立した状態にある。実に不幸なヒロインである。
ちなみに、彼女の本名はメランコリーと言う。これは常に憂鬱の状態にいる彼女の心境を言い表したもので、洒落を効かせたネーミングだ。
そして、彼女にはもう一つ“ラブ・ラブ”という名前がある。これはドブスにつけられた愛称なのだが、成長しきれない未熟な少女‥という意味が込められているのだろう。彼女の性格を言い当てたネーミングと言える。
この二つの名前から分かるとおり、彼女は一言で言ってしまえば“可哀想”な“幼い”女なのである。
クールでワイルドで聡明な“大人”であるドブスに惹かれるのは当然と言えば当然で、この関係は恋愛関係という見方も出来るが、それ以上にメリーの幼稚さとドブスの大人の振る舞いに着目すれば、擬似父娘関係という見方も出来る。つまり、このドラマは子供だったメリーが、ドブスと出会う事で大人の女性へ成長していく‥というイニシエーション・ドラマにもなっているのだ。本作は表面的にはよくあるロマンス・サスペンスだが、実は中々奥が深い。
監督はR・クレマン。様々なジャンルを撮る巨匠であるが、正直この頃は全盛時に比べると今ひとつといった印象がある。前作
「パリは燃えているか」(1966仏米)、翌年の
「パリは霧に濡れて」(1971仏伊)は不満が残る内容だった。しかし、それらに比べれば本作かなり持ち直していると感じた。
レイプシーンから殺害にいたる序盤のシーンは演出に切れが戻っているし、サスペンスを効果的に見せるためのアイテムの使い方などにも唸らされるものがあった。
ただ、ドラマチックに盛り上げるタイプの作品ではないので、全体を通して地味であることは否めない。また、終盤の展開にも甘さが見られるし、事件のからくりも、もっと整理して描いて欲しかった。
とはいえ、そういった不満を凌駕する叙情的な幕引きと、そこで見せるブロンソンの哀愁漂う表情は絶品であり、彼が好きなら“一見の価値あり”な傑作になっていると思う。