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キッズ・オールライト

一風変わった設定のホームドラマ。いかにも現代的で面白い。
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「キッズ・オールライト」(2010米)星3
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 女医をしているニックには、成績優秀で大学進学を控えている娘ジョニがいた。無職のジュールスには、悪友とつるんで心配ばかりかけている息子レイザーがいた。ニックとジュールスはレズビアンのカップルで、夫々の子供たちと一つ屋根の下で暮らしている。ある日、ジョニは母親の書庫から父親ポールの存在を突き止める。ジョニとレイザーは彼に会いに行く。実際に会って話してみると、気さくで優しい独身男だった。これがきっかけて一家はポールと交流を始めていく。
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(レビュー)
 レズビアンのカップル、ニックとジュールスと、彼女等の子供ジョニとレイザーは、同じ屋根の下で家族として暮らしている。日本では考えにくいことであるが、州によっては同性婚が認められるアメリカではありそうな設定である。かなり捻った設定のホームドラマで面白い。

 映画は、彼らの関係について何の説明もないまま始まる。観る側の興味を引き付けるこの語り口は中々巧妙だ。そして、見進めていくと、どうやらこの二人の母親には同じ精子提供者がいることが分かってくる。つまり、彼女等の子供ジョニとレイザーは異母兄弟というわけで、これまた驚きの設定である。

 やがて、家族はこの精子提供者であるポールを新しい家族の一員として受け入れていくようになる。ところが、そもそも出会うはずのなかった父親が突然現れたわけであるから、トラブルになるのは容易に想像がつく。本作はこのトラブルに笑いと悲しみを織り込むことで、上手くエンタテインメントとして料理している。

 テーマは多くのホームドラマがそうであるように、血縁の呪縛という所になろうか。シェイクスピア悲劇のように、やりようによってはかなり陰気なドラマになり得るが、本作は個々のシリアスな感情を割りとサラリと流す事で楽観的に見れるように作られている。
 また、コメディ・タッチを積極的に取り入れることで、どちらかというと肩を張らずに気楽に見れる作品に仕上げられている。

 例えば、ニックとジュールスはゲイのポルノビデオがお気に入りで、たまたまそれを見つけてしまったレイザーをゲイではないかと疑う。自分たちのことを棚に上げて何を言っているのか‥という大人の傲慢さ。過度な自己意識から来る思い違いという浅はかさ。この二つがこの場面にシニカルな笑いをもたらす。
 また、後半のジュールスの裸足の演出も下世話で笑えた。こうした艶笑風な演出は定石と言えるが、敢えてそこを狙ってくる辺り。この監督はコメディをよく知っているという感じがした。

 一方、この家族の“和”は個々の楽観主義が支えているという気がする。ジョニとレイザーは普通ならぐれてもおかしくないはずだが、どこか達観した眼差しで母親たちを見ている。だから、ポールが父親として家族の輪に加わってきても、さして抵抗感なく受け入れられる。しかし、ただ一人ニックだけは、ポールの侵入に反発していく。彼女は家族との距離感を抱えながら苦悩する。この部分はシリアスに描かれている。

 そもそもニックが何故ポールを受け入れられなかったのか?これを想像すると中々面白い。
 ニックは家族を養うために医師として働いている。これは古風に考えれば一家の大黒柱、つまり父親の“あるべき姿”として捉えられる。そして、彼女の佇まいは短髪、パンツスタイルという造形で、これまた父性の表れと捉えられる。つまり、ニックはこの歪な家族の中で完全に父親として存在しているのだ。そして、彼女自身にも家族を守ってきたという自負がある。したがって、彼女からしてみれば、新しく現れたポールは、後から来て家族を奪っていく“盗人”以外の何物でもないのである。ニックだけが反発するのは、当然と言えば当然という気がした。

 ニックを演じるのはA・ベニング。シーンによっては、意識的に声を低くしているような箇所があり、これも父性を付帯させた彼女なりの演技の工夫だろう。一人だけ蚊帳の外に置かれる状態が続くため、前半は他のキャストに比べると翳りがちだが、後半のディナー・シーンで一気に場を飲み込むような好演を見せている。この時に彼女のメイクが若干濃くなっているような気がしたのは俺だけだろうか?今まで父親役に徹してきた自分を“女”に豹変させた瞬間に思えて一瞬ドキッとさせられた。微細な演出だが感心させられる。

 微細な演出ということで言えば、ジョニとクラスメイトの男子の何とも言えない気まずい雰囲気も面白く描けている。ジョニの「やりたい‥」という感情が股間への目配せに表れている。これは先日紹介したW・アレン監督の「それでも恋するバルセロナ」(2008スペイン米)の、S・ヨハンソンの「やりたい‥」という目配せと同じ性的なモーションである。字幕を追いかけているとこうした細かな表情の変化は見逃しがちだが、監督や俳優はそこに命をかけている。映画を味わうためにも一つ一つの所作は大事に監察したいものである。

 尚、ジョニ役の少女はどこかで見た事があると思ったら、「アリス・イン・ワンダーランド」(2010米)のアリス役を演じたM・ワシコウスカだった。透明で繊細な佇まいが魅力的であり、今後も成長が期待される若手女優である。次回作はG・V・サント監督の作品で日本人俳優加瀬亮と競演する予定である。今から期待が高まる。

 一方、この映画の難は、展開が流され気味で説明不足な箇所があることだ。見やすくしようとした功罪と言える。例えば、何故ニックとジュールスは同じ男の精子を貰い受けたのか、その理由は一切述べられていない。おそらく二人の過去にその秘密が隠されているのだろうが、劇中では言及されていないので想像するほかない。仮にそこをつつけばかなり面白いものが出てきそうで、じっくり描いてみても良かったと思う。
 また、レイザーがポールをどう思っているのか。その心情が他のキャラに比べると若干不足気味なのも気になった。
[ 2011/05/03 01:29 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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