SM作家の自嘲交じりな偏愛映画。
「不貞の季節」(2000日)
ジャンルコメディ・ジャンルエロティック
(あらすじ) 人気SM小説家黒崎は、妻の静子が不貞を働いているのではないかと疑っていた。最近では夫の目を気にすることなく、他の男を家に連れ込んでイチャついている。そして、彼のその不安は的中する。担当編集者川田から、黒崎は衝撃的な告白をされる。
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(レビュー) 官能小説家、団鬼六の原作を、
「ヴァイブレータ」(2003日)の異才廣木隆一が監督した作品。
主人公黒崎は元々純文学作家を目指していたが、それでは食っていけずポルノ小説家になった男である。妻・静子はそれをエログロと一蹴し、夫婦仲は完全に冷め切った状態にある。そんな夫婦の愛憎を、周囲の人間模様を交えてコミカルに描いたのが本作だ。尚、黒崎は団鬼六自身の自己投影キャラという捉え方も出来る。そういう意味では、作家の苦悩も見えてきて興味深い。
面白いのは、黒崎が静子の不貞を作品として形にする事で浄化しようと悪戦苦闘する所である。自分の知らないところで果たして妻はどんな風に乱れるのだろうか‥?編集者川田を通して妻の痴態を聞かされる彼は嫉妬を募らせながら、それを想像すると筆が止まらなくなってしまう。結果、生涯最高の傑作を輩出していく。
愛と憎悪の狭間で揺れ動く黒崎の複雑な感情はラストで爆発するのだが、ここは実に見応えがあった。
黒崎は書き上がったばかりの作品を持って、家を出て行く静子を引き止めようとする。しかし、全然相手にされない。「ちょっとだけ愛があるかもしれんのだよ‥」という黒崎の叫びは、虚しく空に響きわたるのみである。彼にしてみれば、最後の賭けに出たのだろう。償いの意味もあったのだと思う。しかし、その思いは静子に通じず、夫婦関係は完全に破綻してしまう。一度離れてしまった心を元に戻す事は容易ではない。人間の不完全性、身勝手さがよく表れているラストだと思った。
一方、静子の方に目を向けると、彼女は罪悪感を抱くことなく奔放に不倫を重ねていく。彼女が特別なだけなのかもしれないが、女性の性的欲望は、ひょっとしたら男性のそれよりも直接的で即物的なのかもしれない‥。そんなふうに思えた。
黒崎を演じるのは、一般映画では意外にもこれが初主演となる大杉漣(ピンク映画での主演はある)。名バイプレヤーとして数々の作品に出演してきたベテラン俳優だけに、演技の安定度は抜群である。廣木隆一のコメディ寄りな演出との相性も中々良い。中でも、「許す」と良いながら川田を平手打ちするシーンが面白かった。
カメラにも感心させられた。芝居のほとんどが室内で行われるため、映像的な広がりには限りがある。そこを色彩の豊富さ、フレーミングの多様性でカバーしている。ただ、若干、不用意な1カット1シーンが目に付くのは残念だった。映画が全体的にコンパクトにまとめられているのでさほど苦にならないが、少し狙いすぎな感じがしなくもない。