華やかなミュージカル映画と双璧を成すシビアなミュージカル映画。
「屋根の上のバイオリン弾き」(1971米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ) ウクライナの寒村に住むテビエ家には5人の娘達がいた。長女ツァイテルは貧しい仕立て屋モーテルと恋仲にあった。しかし、父は彼の事を気に入らず、ツァイテルは中々結婚を言い出せずにいた。そんなある日、テビエは村で一番の中年資産家からツァイテルを嫁に欲しいと言われる。自分と大して年の変わらない男と結婚させるなんて‥。一瞬悩むテビエだったが、その場の勢いでそれを承諾した。翌朝、テビエはその話をツァイテルに切り出すのだが‥。
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(レビュー) 厳格な父親と彼の強権に縛られて生きる娘達の愛憎を、広大な自然の中に描いたミュージカル映画。
ロシア革命やユダヤ人迫害といったシリアスな事件を織り交ぜたところが特徴的で、夢見一辺倒なハリウッドのミュージカル映画とは一線を画す作りが新鮮である。
テビエは“しきたり”を重んじる昔気質の頑固親父である。婚期を迎えた娘達に貧しい暮らしをさせたくない、不幸な結婚生活を歩ませたくない‥という愛情で、彼女たちの自由を縛り付けている。娘達はこれに反発するのだが、このドラマはその父娘の対立を様々なミュージカルシーンで綴っている。
3人の娘達には夫々に交際相手がいる。長女ツァイテルは貧しい仕立て屋モーテルと父に隠れて付き合っている。しかし、彼は無一文の労働者である。テビエは当然この交際に反対し、村で一番の資産家との縁談を勝手に進めてしまう。
次女は村にふらりとやって来た学生運動家と惹かれ合っていく。しかし、革命で飯は食っていけない。安定した収入など見込めるはずも無く、先の苦労が偲ばれる。これもまた父の反対にあう。
三女はロシア人の農民と恋仲になる。ユダヤ人であるテビエ家にとって、ロシア人との結婚など考えられないことである。これも父親に反対される。
夫々のロマンスから、貧困、思想、民族というテーマが明確に浮かび上がってくる。この辺りの作りは大変よく出来ていて、娘達の葛藤、現実に抗いながら女としての幸せを掴み取ろうとする思いが画面から率直に感じ取れた。ミュージカル映画と言うと、大概、歌とダンスに見所が行ってしまい、ドラマが希薄になりがちだが、本作にはドラマの重み、力強さが感じられる。
特に、三女のドラマはユダヤ人迫害の悲劇に結びつけながら、かなり力を入れて描かれている。映画の後半はほぼこれを語ることに専念しており、ユダヤ人が辿ってきた悲劇が痛切に投影されている。結末は見ようによっては悲しい幕引きと言えるかもしれないが、その背景で奏でられるバイオリン弾きの演奏に少しだけ安らぎも覚えた。
そもそも、この映画に度々登場してくるバイオリン弾きは一体何者なのだろうか?劇中では明確に説明されていない。しかし、冒頭のタイトルシーンや中盤の結婚式のシーン等、要所要所に登場してくることから、彼は何かを象徴する重要な存在であることは間違いない。しかも、彼はテビエにしか見えない。彼の正体はこんな風に想像できるのではないだろうか。
テビエは時々神に向かって身の上の不幸を愚痴る。働いても一向に暮らしが良くならないこの社会は間違っている。不幸な結婚を敢えて選択する娘達を理解できない。なぜユダヤ人だけが弾圧されなければならないのか。彼は事あるごとに神に向かって問いかけるのだ。そこから、このバイオリン弾きの正体も想像できる。
彼はテビエの疑問に対する神からの“答え”なのではないだろうか。バイオリンの音色は実に美しい。それに耳を傾けていると、何となく不幸も薄らいでいくような気がする。時には未来に向かって歩みだせ‥と奮い立たせてくれているかのようである。つまり、バイオリン弾きは希望の象徴のような気がするのだ。
したがって、この映画のラストはユダヤ人の悲劇的な運命を表しているようで、実はこの不幸を乗り越えて未来に向かって羽ばたいていく‥という前向きなメッセージのようにも読み取れる。
一方、長女のエピソードについては前半でじっくりと時間をかけて描かれている。こちらも中々見応えがあった。ただ、次女にまつわるエピソードだけは中途半端な感じがした。先の展開を期待させるような伏線は張られているが、後半から三女のエピソードがメインになることで影が薄くなってしまった。結末も放出された感じでいただけない。
本作は3時間の大作であるが、ミュージカル映画という性格上、ストーリーを追いかけるにはやはり物理的な限界があるようだ。次女のエピソードはその煽りを食らったという感じがした。
テビエを演じるのはトポル。彼はミア・ファローをストーキングする間抜けな探偵を演じた「フォローミー」(1972英)での印象が強かったが、こうした剛直な役も出来るという所に演技力の幅が感じられた。舞台版でもテビエを演じているということなので、本作のキャスティングはその流れからだろう。豪快な歌も披露しており素晴らしい熱演を見せている。
カメラも素晴らしい。特に、オープニング・タイトルの幻想的な美しさが印象に残った。全体的に貧しい農村を舞台にした寒色系なトーンを基調としているが、所々にこのような息を呑むような美観が登場する。また、村を追放される村人達の顔をパンで繋いだ叙情的なカメラワークも秀逸だった。
おはようございます、ありのさん。
この作品は今は亡き名優森繁久弥さんが出演してミュージカルにもなった、
人気作なんですよね。この作品に出演してるトポルさんの名前を聞いた時、「007/ユア・アイズ・オンリー」でロジャー・ムーアさんと共演した方なんですよね。
「007/ユア・アイズ・オンリー」とは懐かしいですね。随分昔に見たのですっかり忘れてましたが、出演してたんですね。主題歌しか覚えていませんでした。
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